吉井瑞穂(オーボエ)

世界的に活躍する名手が古楽奏者との共演で聴かせるバロックの世界

昔からバロックは大好きだったんです

 ベルリン・フィルのエキストラ奏者等を経て、現在はマーラー室内管弦楽団の首席の任にあり、これまでに共演した指揮者はアバド、ヴァント、アーノンクール、ラトル。その上、世界の名だたるホールでリサイタルやスター音楽家たちとの共演にいそしむ。そんな夢のような音楽家生活を実現しているオーボエ奏者吉井瑞穂が、銀座のヤマハホールで、やはり欧州を中心に活動するチェンバリスト北谷直樹とデュオ・コンサートを行う。共演はバロック・チェロの懸田貴嗣。
 モダンのオーボエの粋を極めた吉井とバロック&古楽器の組み合わせはちょっと意外な気がすると言うと、「バロック大好きなんですよ」とひまわりのような笑顔を向けた。「日頃はバロックのCDばかりを聴いているし、バロックはオーボエのレパートリーの宝物殿ですから」。納得である。
「昔から古楽器のことなど何も知らずにウィーン・コンツェントゥス・ムジクスのCDを聴いていました。ユルク・シェフトライン(同団の元オーボエ首席奏者)のモーツァルトの協奏曲などは今でも私にとってのベストですね。ドイツの音楽大学には古楽器系の先生の講座がありましたし、マーラー室内管にも古楽器を勉強した人はたくさんいます。私自身ピノックやコープマンなど古楽系の指揮者ともよく演奏します。最近もコンツェントゥスのコンマスだったエーリッヒ・ヘーバルトさんとアンサンブルをして音楽から言葉が聴こえてくるような、おしゃべり奏法に感銘を受けたばかり。もちろん私はモダンの楽器を使いますが、演奏スタイルや解釈は曲に合ったものにしたいですね」

北谷直樹の名技に魅せられて

 北谷直樹を初めて聴いたのは、リコーダー奏者モーリス・シュテーガーの来日コンサート。
「北谷さんのチェンバロがすばらしくて。楽譜の読みの深さが違う。音楽ってこんなに楽しいんだという演奏をされる。その後ずっとコンタクトを取り続け、いつか一緒にやろうねと言っていたのが、ようやく実現するのですから本当に嬉しい」
 今回は彼に意見を聞きながら選曲した。C.P.E.バッハ作とされるソナタ変ホ長調は第2楽章のシチリアーノが人気だ。
「C.P.E.バッハのオーボエ・ソナタ ト短調は出だしから大好きでまさに胸キュン。学生の頃は小節感がどこか“字余り”な感じがしていたのですが、オケで現代曲を吹くようになったからか、近頃とてもしっくりくるんです。サンマルティーニのソナタではバロック時代風に任意なパッセージも入れますよ」

オーボエにぴったりの空間で

 他にもチェンバロ独奏やチェロ・ソナタもあって変化に富んだプログラムになっている。
「バロック音楽の魅力はオーガニックな温かさ。シンプルながら豊かな味わいがあり心身ともに健康になれる。皆さんお仕事で疲れている頃でしょうから(笑)、気軽にいらして、癒しの2時間を過ごしていただければ、これほどうれしいことはありません。もちろん曲はすべて本物中の本物ですから深遠な側面がありますし、そのような仕上がりの美しい音楽はすっと身体に入ってきます。ヤマハホールは今回が初出演なので楽しみ。木材を使用し、これほどきれいに仕上げたホールは世界的にも珍しく、客席数もちょうどいい。それにホールの響きは、まさにオーボエにぴったりなんです」
 そう言って世界の吉井瑞穂は、うっとりした表情を浮かべるのだった。
取材・文:那須田 務
(ぶらあぼ2018年9月号より)

吉井瑞穂&北谷直樹 デュオ・コンサート
〜深遠なバロック時代への誘い〜 Special Guest 懸田貴嗣
2018.10/18(木)19:00 ヤマハホール
問:ヤマハ銀座ビルインフォメーション03-3572-3171
http://www.yamahaginza.com/hall/

  • La Valseの最新記事もチェック

    • アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)| いま聴いておきたい歌手たち 第6回
      on 2019/08/15 at 22:30

      text:香原斗志(オペラ評論家) 実は、あまり好きではなかった 舞台にいるだけで強烈に発せられるオーラにおいて、いまアンナ・ネトレプコ以上の歌手はいない。実演は当然だが、ライブビューイングであっても、彼女が現れた瞬間に空気が変わるのが感じられるから不思議である。役に深く没入している証しでもあるし、彼女が発する声のすみずみまで、役が乗り移っているように感じられる。そうしたあれこれの相乗効果が、オー [&#8230 […]