赤松林太郎(ピアノ)

バッハとピアソラ、そして全部が勝負曲の“王道”プロを

 「旺盛」という表現がとても似つかわしい人だ。休むことなくエネルギッシュな活動を展開する、知的な理論とほとばしる情熱を併せ持つピアニスト赤松林太郎。この秋は東京で、わずか1ヵ月の間に2つの異なるリサイタルが控える。
 まずは9月に、J.S.バッハとピアソラを対置したプログラムを浜離宮朝日ホールで。
「私の中では18世紀と20世紀を代表する対位法作家がバッハとピアソラです。古今東西の対位法の両極と言ってもよいでしょう。そして二人ともピアノで弾くことを想定して作曲していません。それをピアノ1台で表現することで、逆説的に、彼ら自身が意図していなかった魅力が見えてくると思いますし、ピアノという楽器の可能性を探ることにもなると思います」
 バッハはフランス組曲第2番と第3番。今回は特に、「即興的装飾音にこだわる」という。
「装飾音はバッハの自由な即興性の表れです。バロックの一番美しいところ。神を賛美しようとするパッション。ホールのピアノの音色と空気感に合わせてその場で作りたい。バッハの時代の趣味でやるか、それをあえて外すかは、その時まで私にもわかりません」
 ピアソラは山本京子によるピアノ・アレンジで6曲演奏。今回初演の「孤独の歳月」を含め、ほとんどが赤松のための書き下ろしだ。
「山本さんのアレンジは原曲に忠実。だからこそ演奏者に自由が委ねられている。ピアソラの場合、ストイックな編曲ほど、私は惹かれます」
 バッハとピアソラを結びつけるのは「ミニマル」と「対位法」だと語る。
「律動的な反復と対位法的な旋律、と言うのがいいかもしれません。その意味で、ピアソラが、バッハを知るための媒介になると同時に、けっして亜流の作曲家ではないこともわかっていただけると思います」
 そして10月には東京文化会館小ホールでの、ムソルグスキー「展覧会の絵」をメインに、ベートーヴェンのソナタ第13番「幻想風」、武満徹「雨の樹 素描Ⅱ」、リスト「ハンガリー狂詩曲第13番」など、“王道”プログラムが待つ。
「この選曲にはとても時間がかかりました。東京文化会館での金曜夜のコンサート。望んでもなかなか得られない機会ですから、曲の大小にかかわらず全部が勝負曲。飛行機に乗ったとき、毎回見てもいいなと思うような映画ってありますよね。そういう選曲です。これまで何度も国際コンクールで弾いてきた作品ばかり。でも重さ軽さもあるし、調性的にもロジカルだし、なかなか悪くないプログラムだと思います。選曲がピアニストの顔ですから!」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2018年9月号より)

赤松林太郎ピアノリサイタル J.S.Bach×Piazzolla
2018.9/6(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:東音企画03-3944-1581

赤松林太郎 ピアノリサイタル
2018.10/12(金)19:00 東京文化会館(小)
問:Ro-Onチケット047-365-9960 
http://rintaro-akamatsu.com/