アントン・バラホフスキー(ヴァイオリン)らバイエルン放送響の名手たちが紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)のメンバーと組んで、マーラーの「さすらう若人の歌」とブルックナーの交響曲第7番の室内楽版を取り上げる。シェーンベルクとその弟子たちによる編曲版だ。シェーンベルクは1918年に発足させた「私的演奏協会」で、大規模な管弦楽作品の大胆な室内楽用アレンジを数多く試みた。そうした取り組みのなかで「さすらう若人の歌」はシェーンベルク自身によって、ブルックナー「第7」は弟子のアイスラーらによって成された。93年にヘレヴェッヘが「大地の歌」を録音して以来、「私的演奏協会」によるこうした編曲ものにCDで接する機会は増えてきているとはいえ、ライヴで聴く機会はまだ少ない。
ブルックナーの分厚い和音やマーラーの豪奢な色彩を室内楽に編曲すると、旋律の素朴な佇まいが目立つと予想されるかもしれない。だが、実際はそうならない。編曲が優れているのだ。清廉な抒情を湛えつつも動機の細やかな動きが明晰に浮かび上がってくる。ブルックナーは小さな教会に光が差し込んでくるように清らかで、マーラーは世紀末ウィーンの街角で楽士が奏でる唄を彷彿させるように親密。ピアノの使い方が巧みだが、原曲がピアノ伴奏だったことを考慮したのだろう。今回は伊東裕(チェロ)、金子平(クラリネット)といったKCOのメンバーと萩原潤(バリトン)、北村朋幹(ピアノ)といった“腕利き”が揃うだけに、個々の奏者の力量が問われる編曲版での演奏が楽しみだ。
なお、2019年のシリーズ4(1/29)ではオーボエの池田昭子や新メンバーを中心とした木管アンサンブルで、「カルメン組曲」など寛いだプログラムを予定。対照的な曲目により室内楽の可能性を広げる。
文:多田圭介
(ぶらあぼ2018年9月号より)
2018.12/5(水)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp/