バーンスタインがあって今の私があるのです
アメリカ音楽の魅力を伝える第一人者として、クラシックというジャンルを超えて活躍するソプラノ、柴田智子にとって、ニューヨークでのレナード・バーンスタインとの出会いがキャリアの原点だった。
「当時、ミュージカル『キャンディード』のグネゴンデ役に苦戦していた私に、“まずはオペラ歌唱の基礎を身に付けなさい”と助言をくれたのが、他でもないバーンスタインでした。そこで、ミラノに留学してベル・カントを学ぶ決心をしたのです。日本に帰国した時には残念ながら既に亡くなられていましたが、私のデビューCDは、ブルーノ・ワルターとバーンスタインの専属だった凄腕プロデューサーのジョン・マックルーアが制作を担当してくださり、バーンスタインに捧げるようなアルバムになりました」
そんな巨匠の生誕100年にあたる今年、彼女は4月のニューヨークに続き東京でも6月に記念リサイタルを開催。タイトル『L.バーンスタインと柴田智子の世界』は“今を生きる喜び”を発信する彼女らしい意思表明だ。
「私の名前を並べるのはおこがましいと感じつつ、私にもバーンスタインと同じ“クラシックの正統派にして異端児”な血が流れていると思いたいのです。自分のライフストーリーを描いたシアターピース『LIFE』を書いたのも、誇りを持って自分の音楽をやっていきたいと思ったから。アニバーサリーである今回はそんな機会にしたかったのです」
リサイタルの前半はバーンスタイン尽くし。「Mass」からの〈A Simple Song〉に始まり、カール・ベームに捧げた〈Piccola Serenata〉やバーブラ・ストライサンドが初演した反戦歌〈So Pretty〉など知られざる曲からミュージカル『ウエストサイド物語』の王道ナンバーまで盛り沢山。
「王道ナンバーだからこそ正しいディクションで。歌詞の世界にきちんと向き合えば〈Somewhere〉はフォルテではなく希望に向かってひっそりと歌い出すべきであり、〈Tonight〉はまるで宇宙に想いをスパークさせるような感覚とわかるはずです。ソロでもデュエットでも曲が持つドラマを大切にしたいです」
後半はニューヨークでも披露して好評を博した自作曲に加えて、坂本九の歌唱で知られる〈上を向いて歩こう〉や〈心の瞳〉などをアメリカンシアターアンサンブルの面々と一緒に。
「バーンスタインがあって今の私がある。新しいアレンジとアンサンブルの妙で生まれ変わった日本のポップスも違和感なく楽しんでもらえるはず。後半は私のリビングルームにお招きするようなイメージなんです」
8月には東京ニューシティ管弦楽団(指揮:三ツ橋敬子)の定期に出演し、たっぷりとバーンスタイン・ナンバーを歌う予定。こちらも楽しみだ。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2018年6月号より)
L.バーンスタインと柴田智子の世界
2018.6/9(土)19:00 豊洲シビックセンターホール
問:T.S.P.I 03-3723-1723
http://www.tomokoshibata.com/
東京ニューシティ管弦楽団 第119回定期演奏会
バーンスタイン アメリカン シアターミュージック
2018.8/5(日)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:東京ニューシティ管弦楽団チケットデスク03-5933-3266
http://www.tnco.or.jp/