川瀬賢太郎(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

大胆にして意義深いメモリアル・プログラム


 川瀬賢太郎が神奈川フィルの常任指揮者として5年目のシーズンを迎える。2014年に29歳で就任した彼の契約延長(17年から3年)は好調な関係の証し。実際当コンビは、川瀬の持ち味を反映した情熱的かつ躍動的な演奏を続けているだけに、今後も目が離せない。
 さて新シーズンは、生誕100周年を記念したバーンスタインの特集で始まる。しかも、旧ソ連を出たロストロポーヴィチのワシントン・ナショナル響音楽監督就任を祝って作曲され、曲中に政治的な演説と歓呼の声が流される「スラヴァ!(政治的序曲)」、出身民族が異なる米国人不良グループの対立下の愛と犠牲を描いた『ウエスト・サイド・ストーリー』より「シンフォニック・ダンス」、道徳を失った国と民衆に信仰の回復を説きながらも絶望に陥る古代ユダヤの預言者エレミアの悲哀を表現した交響曲第1番「エレミア」という創意に充ちたプログラム。川瀬が「3曲はどれも『今』演奏することに意味があります」と述べる通りの内容だ。とはいえ音楽自体は、構えずに楽しめる明快なものばかり。「スラヴァ!」は『ウエスト・サイド』の「クラプキ巡査への悪口」を彷彿させる快活な佳品、「シンフォニック・ダンス」は名旋律とリズムが踊るおなじみの名曲だし、「エレミア」も“重くないショスタコーヴィチ”といった趣で非常に聴きやすい。「エレミア」の独唱は関西二期会の福原寿美枝。彼女は14年に川瀬が同曲を名古屋フィルで演奏した際にも豊潤な歌声を披露している。
 これは、「エレミア」の貴重な生体験を含めて、記念イヤーの中でも注目すべき公演だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年3月号より)

第338回 定期演奏会 
2018.4/7(土)14:00 横浜みなとみらいホール
問 神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107 
http://www.kanaphil.or.jp/