進化するテノール、西村悟の“今”を聴くリサイタル
オペラに演奏会に大活躍のテノール歌手、西村悟。イタリアで研鑽を積み、藤原歌劇団で歌った《椿姫》《蝶々夫人》《仮面舞踏会》など、得意のイタリア・オペラで賞賛されてきた。そして今年12月にはドニゼッティ《ルチア》に出演する。その西村のこれまでの集大成となるリサイタルが、10月に東京オペラシティで開かれる。
「曲目は、これまでイタリアでコンクールやオーディションなど勝負の時に歌って来た、思い入れがある曲を揃えました。《愛の妙薬》《ラ・ボエーム》《トスカ》など主にイタリア・オペラのアリアで構成されていますが、2曲だけマスネ《ル・シッド》とチャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》が入っています。今はまだ自分にピッタリ来るのは、例えば《椿姫》のアルフレードのような若い青年の役なのですが、《ル・シッド》は《仮面舞踏会》のリッカルドと同じように皆を束ねる威厳のある主人公。これから歌いたい、未来を見据えた一曲なのです」
今回のリサイタルはオーケストラ伴奏。演奏は、今をときめく山田和樹が指揮する日本フィルハーモニー交響楽団だ。
「ヤマカズさんとは、メンデルスゾーンの交響曲『讃歌』でご一緒したのが最初の出会いでした。そして仙台で彼がオペラを初めて指揮した演奏会形式の《椿姫》にもアルフレード役で呼んでいただきました。すごく歌いやすい指揮なんです。歌手に対して自由さも与えながら手綱を少しずつ引き締めているような感覚といいますか。でも馬は、自由に走っていると勘違いするわけなんです(笑)。
僕がこだわりを持って勉強してきたイタリア・オペラの歌と、天才的な感覚を持っているマエストロが、お互い刺激し合うことによって何らかの化学変化が起こるのではと楽しみにしています」
今年3月にはびわ湖ホールで、沼尻竜典指揮のワーグナー《ラインの黄金》でローゲ役を歌い注目を集めた。
「ローゲは一年以上かけて入念に準備しました。実は、これまでドイツものは歌わない、と食わず嫌いで決めていたんです。ところがある時、マーラーの『大地の歌』を歌った経験から、声を聴いて下さる皆さんと自分の思っている役柄のギャップに気がついて。イタリアで学んだ自分の声で歌えばいいんだ、と開き直ったんです。今後は日生劇場でモーツァルト《魔笛》にタミーノ役で出演することが決まっています。ローゲを先に歌ったらもう怖いものはないですよ」
どんどん進化する西村の“今”を聴く貴重なリサイタルになりそうだ。
取材・文:井内美香
(ぶらあぼ2017年10月号から)
五島記念文化賞 オペラ新人賞研修記念
西村 悟 テノール・リサイタル with 山田和樹指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
2017.10/11(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp/