10回目の記念コンサートは素晴らしい仲間たちとの共演で
チェロ奏者の海野幹雄が毎年継続しているリサイタルが第10回の節目を迎える。「普通じゃないことをやりたいタイプなので」と笑う海野が組んだプログラムは、ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバス各々との二重奏を3曲に、ハイドンのチェロ協奏曲2曲という構成だ。
「ハイドンの協奏曲は、チェリストにとっての指標であり試練です。音楽の表現に必要なすべてが要求されている。音楽は美しいけれど、弾くのは大変。でも、だんだんわかってきている気がします。父(ヴァイオリニストの海野義雄)が演奏するモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を聴いて育ったこともあり、若い頃はそれと同じ様に軽々と演奏しなければならないというイメージが強かったのですが、チェロ作品はチェロらしく演奏すればいい、そう気付いてからハイドンを弾くことが急に楽になってきました」
チェロそのものときちんと向き合い始めたのが20代後半からだと振り返る。
「14歳でチェロを弾き始めて、1年ちょっとで運良く桐朋学園の高校に入った。そうすると、周囲の高いレベルに負けて自分の音にげんなりするわけですよ。学生時代はチェロもろくに練習せずに、オーケストラのスコアばかり眺めていましたね。大学を卒業して、留学すべきか迷ってある先生に相談したら、『あなたに必要なのは基礎の個人練習。留学したって自分の部屋でドアを閉めて一人で練習しないといけない。それを一生だよ』って言ってくれたんです。言われてみたらうちの父も、毎日基礎練習ばかりしていました。コンサートの演目をカッコよく一度通して終わり、みたいな練習なんてまったくしていない。演奏家として何かを保ったまま歳をとっていくことがどんなに凄いことなのか、やっと気づいた。もっと早く気づけよってことですけど(笑)。それが20代でした」
共演のオーケストラは彼の仲間たち。「思いつく名前を並べていったら、すごい顔ぶれになってしまった」というメンバーは、コンサートマスターの川田知子以下、ヴァイオリンに白井篤、瀬崎明日香、千葉純子、猶井悠樹、直江智沙子、三又治彦、ヴィオラに佐々木亮、鈴木康浩、チェロに西山健一、コントラバスに黒木岩寿、オーボエに古部賢一、大西幸生、ホルンに嵯峨郁恵、松嶋千絵。そして協奏曲のカデンツァを2曲とも新垣隆に新たに作曲依頼。7歳年上の彼もまた、大学時代から共演を重ねてきた仲間の一人だ。
「この10年の自分の成長を見てきてくれた人たち。こういう人たちとの共演から刺激を受けてきたから今の僕がある。彼らとの年月そのものの結晶こそが記念にふさわしいと思います」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2017年9月号より)
海野幹雄 チェロリサイタル 10回記念 スペシャル・コンサート〜仲間たちと共に〜
2017.9/14(木)19:00 東京文化会館(小)
問:新演03-3561-5012
http://www.shin-en.jp/