上原彩子(ピアノ)

『ファウスト』に霊感を得たラフマニノフの大作に挑戦!

C)三浦興一
 お昼の90分、選りすぐりの作品がお話つきで紹介される、第一生命ホールの人気企画『雄大と行く 昼の音楽さんぽ』に上原彩子が登場する。
 今回上原が取り上げるのはラフマニノフのピアノ・ソナタ第1番。約40分を要する超大作であり、コンサートで弾くピアニストは決して多くない。「チャイコフスキーやプロコフィエフなどロシア作品をレパートリーの柱とし、これまで多くのラフマニノフ作品を弾いてきた私だからこそ選曲できた」と意欲を見せる。
「ラフマニノフの作品は非常に音の数が多く、ゆったりとした楽章でも内声部に音が詰め込まれており、まったく気が抜けません。さらに、長大なこの作品の場合、いかに聴き手に冗長さを感じさせず、無駄な箇所を一つも作らずに全体を構成していくかが問われます。この長さがあってこそ充実感を覚えた——そうお客さまに感じていただけるように弾きたいです。そのために、毎日のように構想をノートにメモしています。楽譜に書き込みはしません。なぜなら、その構想は日々生まれ変わっていくからです」
 作曲の段階で、ラフマニノフはゲーテの戯曲『ファウスト』を題材とし、主人公のファウスト、若い女性グレートヒェン、悪魔のメフィストフェレスの名を3つの楽章に付けたが、それらのタイトルは出版時に削られた。
「作曲家が最終的に消した以上、どこまでタイトルにこだわって良いかわかりませんが、やはりキャラクターが念頭にあるとまとめやすくなりますね。なんといってもメフィストフェレス、つまり悪魔的な世界感の印象が強く残る作品です。悪魔の視点から描かれた芸術は、歪みや皮肉に満ちていながら、どこか真実を伝えるようなところもあります」
 コンサートの冒頭には名曲「前奏曲『鐘』」も演奏される。
「鐘の音が響き渡るロシアで生まれた音楽は、鐘とは切っても切れない関係ですね。この前奏曲はもちろん、続くソナタの低音部の響きにも私は鐘の音を感じます」
 日頃は3人の娘を小学校に送り出して、すぐピアノに向かうのが日課。このコンサートのスタート時間の午前11時から『ファウスト』の世界と向き合うことに抵抗はない。
「ただ、お客様が受け入れてくださるかは少し心配です(笑)。今回は案内役の山野雄大さんと楽章間ごとにトークを入れて、作品の性格をよりイメージしやすいようにお届けしたいと考えています。ぜひ夏休み中のお子さんも一緒にお越しいただきたいです」
 小学生以上入場可。真夏のラフマニノフをじっくりと楽しみたい。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ 2017年7月号から)

雄大と行く 昼の音楽さんぽ 第11回 上原彩子 壮麗の先へ! ピアノ演奏の極み
8/23(水)11:00 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702
http://www.triton-arts.net/