今までにない「ゴルトベルク」体験の予感
今年は「ゴルトベルク変奏曲」を取り上げるピアニストが多い。そんな中でも、とくに気鋭の若手ピアニストがこれを弾くリサイタルでは、21世紀の新しい「ゴルトベルク」との出会いに期待してしまう。その筆頭といえるのが、すみだトリフォニーホールのシリーズ《ゴルトベルク変奏曲》 2017に登場するキット・アームストロングの演奏会だ。
巨匠ブレンデルがその才能に太鼓判を押す、数少ない弟子のひとり。1992年アメリカに生まれ、カーティス音楽院と英国王立音楽院で学び、パリ大学では数学の学位を取得。現在、フランスの古い教会を改装し、自らもそこに暮らしながら、演奏、作曲活動を行うというユニークな経歴でも注目を集めている。
アームストロングはルネサンス期の作品の研究にも力を入れており、今回も前半には、バード、スウェーリンク、ブルによるヴァージナル音楽を取り上げる。彼によれば、これら16〜17世紀前半のヴァージナル音楽の大家たちは「鍵盤音楽の一つの頂点を築いた」と言え、続く時代を生きたJ.S.バッハの音楽には、その大きな影響が見て取れるという。
古い時代の作品ほど、演奏にまつわる資料は少ない。そんな中で正しい解釈を創るのは後世の音楽家であり、そうした「音楽から普遍的なメッセージを見つけて分かち合う」作業に自らも貢献したいと、アームストロングは話す。そんな彼だけに、今回はこのプログラムの流れの中で、新鮮で発見に満ちた「ゴルトベルク」を届けてくれることだろう。当日を楽しみにしたい。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ 2017年8月号から)
2017.8/29(火)19:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
http://www.triphony.com/