鈴木豊人(クラリネット)

レーガーの作品でたどり着く世界はたとえようもなく美しいのです

 今年4月に改称して新たなスタートを切った「紀尾井ホール室内管弦楽団」(旧・紀尾井シンフォニエッタ東京)。メンバーらによる室内楽コンサートも、「紀尾井ホール室内管弦楽団によるアンサンブルコンサート」としてリスタートする。その第1回は「五重奏のカレイドスコープ」。ライヒャの変奏曲、ベートーヴェンのピアノと管楽のための五重奏曲、レーガーのクラリネット五重奏曲。管楽器が主役の五重奏曲にフォーカスしたプログラムだ。レーガーのクラリネットを吹くのはオーケストラ創設時からのメンバー鈴木豊人。
「クラリネット五重奏の最高峰なのですが、滅多に演奏されませんね。クラリネット五重奏の歴史は、モーツァルトに始まり、ウェーバー、ブラームスがあってレーガーがある。第1楽章には、ブラームスの引用もあります。その処理の仕方がまた美しい。ちょっと煙に巻かれるような感じもあるんですけれども、たどり着く世界はたとえようがないほど美しいです。前半のライヒャとベートーヴェンの、サロン的な楽しさとは対照的。弦のメンバーは、ライヒャとレーガーを一晩に弾くので面食らうでしょうね(笑)」
 オーケストラが室内楽コンサートを主催しているのは、個々のメンバーのアンサンブル体験を磨いてオーケストラ全体の質を向上させる意図もある。オーケストラと室内楽とでは吹き方を変えるものなのだろうか。
「僕はあまり意識したことはありません。ただ紀尾井ホールで、さまざまな編成で吹いた経験から感じているのですが、響き方や聴こえ方は、編成によっても全部違うんですよ。もちろんこのホールの響きは熟知しているので安心感はありますけど、何が起こるかは毎回違います。逆に言えばそれが楽しみでもありますね」
 興味深い、でも一般的にはややレアな演奏曲目だが、コンサートを聴く“準備”についてこんなことを話してくれた。
「僕自身は、前もってCDを聴いたり解説を読んだり、予習して出かけることはほぼありません。当日のプログラム冊子さえ開演前や休憩中には読まない。先入観を持ちたくないんです。何も知らないまま客席に身を置く。だからみなさんも、どうぞ頭を空っぽにしてお越しください。こうでなければならないなんていう決まりは一切ないですから」
 そうだ。音楽は自由だ!
 出演は他に、福士マリ子(ファゴット)、蠣崎耕三(オーボエ)、鈴木高通(クラリネット)、丸山勉(ホルン)、山﨑貴子、今井睦子(以上ヴァイオリン)、安藤裕子(ヴィオラ)、中木健二(チェロ)。ピアノの上原彩子がゲスト(ベートーヴェン)。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2017年7月号より)

紀尾井ホール室内管弦楽団によるアンサンブルコンサート(1)
五重奏のカレイドスコープ
2017.9/11(月)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp/