若き名手によるパワー全開の刺激的なステージ
音楽ライター山野雄大の解説付きで選りすぐりの演奏をお届けする、第一生命ホールの名物企画『雄大と行く 昼の音楽さんぽ』。記念すべき第10回には“クラシック・サクソフォン界若手No.1”の呼び声高い、上野耕平が登場。昨年リリースしたセカンド・アルバム『Listen to…』の収録曲を中心にしたプログラムを披露する。ピアノはアルバムでも共演した山中惇史。
「オープニングはムソルグスキーの歌劇《ホヴァンシチナ》から〈モスクワ川の夜明け〉。原曲にはないリズムも使い、構成もかなり違います。和音もモダンで、編曲の伊賀(拓郎)さん“節”も利いてピアノ・パートも美しい。今回のプログラムでは色彩感が豊かな山中さんのピアノとの対等なアンサンブルも楽しんでいただきたいですね」
「熊蜂の飛行」も単なる超絶技巧曲のカバーにあらず、ジャズの香り漂う21世紀版に生まれ変わっている。
「指回しが速いとか、そういうのとは異なる魅力があります。有名なテーマの使い方も斬新で、いい意味でお客様の期待を裏切れると思います」
「G線上のアリア」に続いての後半は技巧を凝らした、めくるめく現代音楽の世界へ。
「『熊蜂の飛行』もそうですが、現代曲では巻き舌を使った“フラッター”や唸り声のような“グロー”、リードに対して舌打ちするような“スラップタンギング”といった特殊奏法が結構出てくるので、このあたりはぜひ山野さんの解説で、音を出すメカニズムや曲に使われるとどのような効果があるのか、その魅力についてわかりやすく説明していただけたらと思っています。決して、ただテクニックをひけらかす曲ではないのです」
テュドール「クォーター・トーン・ワルツ」から、同世代の鬼才コンポーザー坂東祐大が彼のために書き下ろした「エアリアル・ダンス」(改訂版初演)へと続く無伴奏の2曲は、最大の聴きどころかもしれない。
「コミカルなテュドールの曲で微分音(半音をさらに半分に割った四分音=クォーター・トーンはその代表例)に耳を慣らしていただいてから、坂東さんの楽曲へ。恐らく世界一難しい曲ですが、見たことのない音の風景に連れて行ってくれる凄い作品。初演よりも更に進化していますのでご期待ください!」
最後は山中がオペラの聴きどころを再構築してサックスのために編曲した「カルメン・ファンタジー」で締め。
「〈花の歌〉がまるまる入った歌心満載の作品で気持ちよく歌えます。夏休みなので若い世代にも足を運んでもらえたら嬉しいです」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ 2017年6月号から)
雄大と行く 昼の音楽さんぽ 第10回 上野耕平
7/26(水)11:00 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702
http://www.triton-arts.net/