赤松林太郎(ピアノ)

節目のコンサートに“原風景”のシューマンを


 神戸大学で音楽学を学んだのち、パリに渡りエコール・ノルマルでフランス・クリダに師事した赤松林太郎。演奏にも教育にも旺盛な活動を展開し、彼の演奏と人柄に接した人の多くがその圧倒的な存在感と際立った個性を語る、注目のピアニストだ。
 10年前にパリから帰国後も、ハンガリーなどヨーロッパと日本を頻繁に行き来して活動しているが、昨年から洗足学園音楽大学の客員教授に就任したこともあり、東京での定期的な自主コンサート開催に本腰を入れ始めた。
「毎回テーマを定めて、自分の生きている様子を音にするというのが私たちの仕事です。丁寧にやっていきたいなと思っています」
 5月の帰国10周年リサイタルは、シューマン「春の歌」、ベートーヴェン「テンペスト」、ワーグナー「ジークムントの春と愛の歌」(タウジヒ編)、「イゾルデの愛の死」(リスト編)、シューマン「花の曲」と「クライスレリアーナ」という構成。パリで学んだピアニストによるドイツ・プロだ。
「クリダ先生に師事したのは、やはり先生が最も得意としたリストを学びたかったからですが、同時にジャン・ミコー先生にもついていました。ミコー先生はフランス人でありながら、シャルル・ミュンシュと似てドイツものがメインなのです。だから私も、どちらかというとドイツ音楽にシンパシーがあります」
 プログラムのテーマは“シューマンをめぐる情景”だという。法学部に進んで外交官を志すつもりだった赤松を最終的に音楽に専念させた体験が、アルゲリッチやネルソン・フレイレが審査員を務めた2000年のクララ・シューマン国際ピアノ・コンクール第3位入賞だった。そこで弾いたのがシューマンの協奏曲。その意味でシューマンはキャリアの原風景だと語る。
「審査員に、テクニックはパーフェクトだったが曖昧さがないと言われました。ポエジーがなくてメカニカルだということ。その意味を当時の私はわからなかったんです。つまり、シューマンといえばハイネの世界に繋がりますよね。ピアニストがつくる“拍”では表せない、歌っている人の呼吸や時間感覚が必要なんですね。今回はそんなポエジーをプログラムに練りこみたいと思いました。しかもどの曲も、のちの時代に語りかけるポエジーって言ったらいいのかな。私たちに、あるいは私たちの歴史に対して暗示のように働きかけるというプログラム。けれん味はないですが、私が作品に対してじっくりと語りかけるのを、一緒に聴き遂げてほしいと思います」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ 2017年5月号から)

帰国10周年 赤松林太郎ピアノリサイタル 〜麗しの五月、つぼみ開く頃〜
5/24(水)19:00 ヤマハホール
問:東音企画03-3944-1581
http://rintaro-akamatsu.com/