LPOと“音符の向こう側”への意識を深められたことを誇りに思います
クライバー、ショルティ、テンシュテットらに比肩しうる才能と呼び声の高いウラディーミル・ユロフスキが、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(LPO)の首席指揮者になって10年。国際的にも評価の高いコンビが、待望の初来日ツアーを今秋行う。
「長年努力し、今回ようやく実現しました。私たちの音楽の質の高さを肌で感じていただけることに興奮しています。また様々な国の文化に触れることは、私たちの音楽にもより深い彩りをもたらしてくれます。日本の文化と伝統を実体験できるのも楽しみです」
ユロフスキの眼にLPOはどう映っているのだろうか。またこの間、首席指揮者としてどのような関係を築いてきたのだろうか。
「異なる演奏スタイルに対応できる才能豊かな楽団で、柔軟さ・精密さ・知性、そして“音符の向こう側”への意識を深められたことを誇りに思っています。近代オーケストラは19世紀後期から20世紀初頭にかけての産物ですが、いまを生き、過去と現在の音楽とが織りなす音風景に向き合っていかなければいけません。また、LPOはグラインドボーンのレジデント・オーケストラとして劇場音楽の経験が豊富で、オペラならではの音の聴き方やコラボレーションから多くを学んでいると思います」
ユロフスキの演奏は極めて緻密で、また同時にフレッシュでダイナミックだ。どんな思いで音楽に臨んでいるのだろうか。そして何が音楽家としての形成に影響を与えたのだろうか。
「どんな指揮者も、まずはスコアが体現している真実を追求するべきです。作曲当時の社会や思想、個人的な出来事や政治状況をも含めた幅広い視点が大切です。音楽だけが離れて存在する訳ではありませんから。指揮者は作品の細部を浮彫りにし、その機能を明確にして演奏家と聴衆に伝えるわけですが、自分の個性が作曲家の個性を曇らせないよう一歩退くことも必要です。もちろん、指揮者の父(ミハイル・ユロフスキ)と作曲家の祖父(同名のウラディーミル・ユロフスキ)をはじめ幅広い音楽家のネットワークが私の人生と信念に影響を与えましたが、その影響は一般に想像されるものと違うかもしれません」
今回のプログラムでは、チャイコフスキーの交響曲第5番・第6番を中心に、ワーグナーやブラームスなどが組み合わされている。チャイコフスキーについてユロフスキは次のように語る。
「チャイコフスキーは欧米で名が知られた初めてのロシア人作曲家で、ロシア人にとって彼の音楽は初恋、母乳のようなものです。ただ、チャイコフスキーは実はロシア的なものにあまり重点を置かず、中央ヨーロッパの伝統や形態を取り入れようとしました。ブラームスやワーグナーにも大きく影響を受けていて、それは必ずしもポジティブなものだけでないかもしれませんが、並べて聴くと発見があると思います。彼の音楽はこれまでも、これからも私の人生の伴侶で、年を経るにつれ演奏も変わっていくのでしょう」
協奏曲にはソリストとして辻井伸行が出演するのも話題だ。辻井はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とラフマニノフの同第2番を演奏する。
「辻井さんの人柄と音楽に触れること、そして、彼をよく知っている皆さんの前で共演できることも楽しみにしています!」
取材・文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2017年5月号から)
ウラディーミル・ユロフスキ(指揮) 辻井伸行(ピアノ)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 日本ツアー2017
2017.10/6(金) 福岡シンフォニーホール
10/7(土) フェスティバルホール
10/8(日)日本特殊陶業市民会館フォレストホール
10/9(月・祝)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
10/12(木) サントリーホール(完売)
10/13(金) アクトシティ浜松
10/14(土) ミューザ川崎シンフォニーホール(完売)
*ツアーの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://avex.jp/classics/