ダニエル・シュー(ピアノ)

©Chris McGuire
 1997年カリフォルニア生まれ、現在カーティス音楽院で学ぶダニエル・シュー。昨今、アメリカ育ちのアジア系ピアニストの活躍が目立つなか、彼もまた、これからが楽しみな若手の一人だ。2015年浜松国際ピアノコンクールで第3位に入賞。このとき演奏されたベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番について、海老彰子審査委員長が「18歳であれほど円熟した演奏ができるのはなぜだろうと驚いた」と話していたが、確かに彼の演奏には、若々しさの中にどこか渋さを感じさせるようなおもしろさがあった。
 実はこの浜松コンクール、シューにとってアメリカ国外で演奏する初めての体験だったらしい。そしてこの入賞を機に、いろいろな演奏機会に恵まれるようになったそうだ。
 今度の来日では、東京(Hakuju Hall)や大阪(ザ・シンフォニーホール)、思い出の地である浜松など6都市でリサイタルを行う。取り上げるのは、弾きたいという強い想いのある作品ばかり。
「先生の勧めや方向性にあわせて曲を選ぶという話はよく聞きますが、僕はとにかく自分が弾きたいものを選びます。そして曲を聴き、作曲家が求めるものを理解するためにたくさんの時間を費やし、自分の物語を描いていくのです」
 各公演で少しずつ異なるプログラムが用意されているが、うち数曲は、浜松コンクールでも演奏して評価されたレパートリー。例えば東京公演などでは、前述のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番を演奏する。
「これは、僕にとってとてもパーソナルで多くの意味を持つ作品です。一次元的な感情の動きだけでなくあらゆる展開が隠れていて、演奏にも深みが求められます。弾くのが毎回楽しく、違ったものになります」
 また別プログラムの大阪公演では、やはりコンクール中に演奏し、細やかな描写力で聴衆を魅了したムソルグスキー「展覧会の絵」を披露する。
「無限の色彩とキャラクターが埋め込まれたすばらしい作品です。曲は一つひとつ異なる絵画を表し、それぞれに物語があります。そして、そこに探求の余地と個性のあるところが魅力です」
 カリフォルニア生まれのイメージに合う明るい笑顔を持った若者だが、以前、将来どんなピアニストになりたいかと尋ねたときは、急にまじめな表情になってこう話した。
「演奏することで、音楽を、そして神様の愛情を人と分かちあえるピアニストでいたい。なにより大切なのは心から演奏するということです。メッセージも魂もなく演奏するのは、才能の無駄遣いだと思うんです」
 今度の日本ツアーを、心から楽しみにしているという。強い意志に支えられた、生命力あふれる音楽を届けてくれることだろう。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ 2017年4月号から)

ヤング・プレミアムコンサート Vol.4
5/9(火)19:00 ザ・シンフォニーホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777
http://www.concert.co.jp/
第125回 スーパー・リクライニング・コンサート
5/17(水)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp/
※ツアーの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.concert.co.jp/