世界が注目する若きマエストロが挑む《カルメン》の世界
藤原歌劇団が2017年2月に上演する《カルメン》。山田和樹が指揮することでも話題の公演だ。日本フィルの正指揮者にしてスイス・ロマンド管の首席客演指揮者である彼は、16年9月からはモンテカルロ・フィルの芸術監督兼音楽監督も務め、今や世界からひっぱりだこの“スター指揮者”だ。
まずは初めてのオペラに《カルメン》を選んだいきさつを聞いた。
「シンフォニーを主に指揮してきましたので、オペラは初挑戦。緊張しています。《オレステイア》や《火刑台上のジャンヌ・ダルク》は、オペラといえばオペラでしたが、舞台があってピットに入る形のものは今回の《カルメン》が初めてです。最初にやりたかったオペラは、正直に話すと、ドビュッシーの《ペレアスとメリザンド》でした。伝説のジャン・フルネさんと日本フィルとの日本初上演の歴史もありますし。でも、よく知られている作品がいいね、ということになり、傑作中の傑作《カルメン》を選びました」
ビゼーがそれ以前に書いたシンフォニーや他の作品にくらべて、格段にハイレベルな内容をもつ作品が《カルメン》だと語る。
「若いころに書いたハ長調のシンフォニーなどと比べても、和声の作り方など同一人物とは思えないですね。《カルメン》のスコアはとても天才的で、凝っているといえば凝っているし、シンプルといえばシンプルなのですが、オーケストレーションがよくできていますから、確実に“鳴る”作りになっているのです」
世界のオーケストラ・レベルが向上しているといわれる現在、オペラに必要なのは技術のうまさだけではない、という。
「オペラには時代背景があり、雰囲気があって、過去の決定的な名演や名演出がある。存続させなければならない伝統もあるので、歌手やオーケストラの演奏技術だけでは作り上げていくのは難しいのです。演出は岩田達宗さんなのですが、岩田さんの想いと知識は本当に素晴らしくて、彼とのコラボレーションは楽しみです」
登場人物の中でマエストロが魅かれるキャラクターは誰だろう?
「カルメンという圧倒的な個性の前で、ミカエラはただ善良なだけと思われがちですが、それだけではない。心中に大胆さや意外性、清純な魅力というものがあり、女性の二人は女の二つの面を表していると思います。ホセの、恋愛にすべてを捧げて破滅していってしまうようなところは、男性になら誰にでもあるところでしょうか。僕が嫌い…といってしまうと何ですが、苦手な人物はエスカミーリョ。エリートが嫌いだからかもしれません。僕の中にいるのはホセの方だと思います」
オーケストラは日本フィルだ。
「一緒に走り続けている“戦友”ですね。日本だけでなく、世界に発信力のあるものを常に彼らとは作り上げていきたいと思っています。オペラも一生のうちに20作振れたらいい人生、と若杉弘先生は言っていましたが、僕も生きているうちに20作振れたらいいですね」
一線で活躍する歌手をそろえたキャスティングも魅力的。見逃せない公演だ。
取材・文:小田島久恵
(ぶらあぼ 2017年1月号から)
藤原歌劇団公演《カルメン》 ニュープロダクション
2017.2/3(金)18:30、2/4(土)14:00、2/5(日)14:00 東京文化会館
2017.2/11(土・祝)14:00 愛知県芸術劇場大ホール
問:日本オペラ振興会チケットセンター044-959-5067
http://www.jof.or.jp/