サラ・オレイン(アーティスト)

才媛が贈るミュージカルの名ナンバー

 女優の中嶋朋子を案内役に据えたシリーズ公演『音楽劇紀行』は、田尾下哲(総合プロデューサー)と加藤昌則(音楽監督)が中心となり、音楽劇の表現形式の変遷を全6公演で辿る大型企画。毎回メインとなる音楽形式(バロック・オペラ、オペレッタなど)は設定するが、それ以外の時代からも少しずつ紹介して全体像を見せる、斬新なプログラムが話題を呼んでいる。
 5月に上演された初回「バロック・オペラ」編に続く12月の第二夜もメインテーマは「古典派オペラ」だが、「ロマン派オペラ」や「オペレッタ」などにも触れ、最後は「ミュージカル」で華麗に締めくくる趣向だ。その「ミュージカル」セクションに登場して歌うのが、シンガー、ヴァイオリニスト、テレビ番組のパーソナリティなど、マルチに活躍するサラ・オレインだ。
「メインである《フィガロの結婚》や《ドン・ジョヴァンニ》からのアリアは古典的な様式美の世界ですが、どの作品もコメディで普遍的な恋の駆け引きがテーマなので、オペラに慣れていない人でも楽しめるはずです。それに対して私が担当する『レ・ミゼラブル』の〈夢やぶれて〉は絶望の歌。ミュージカルだから映画版のアン・ハサウェイ程じゃないにしても、多少は声を荒らげるような演技を採り入れても許されると思います。歌詞が本当に素晴らしいので、今回はオリジナルの英語で歌えるのが凄く嬉しいです」
 同作品からはバリトンの宮本益光とのデュエットで〈ファンティーヌの死〉も披露。
「この曲には、『レ・ミゼラブル』の中で後に登場する、これもまた悲劇の女性エポニーヌが歌う〈オン・マイ・オウン〉という名曲の旋律が使われているところが素敵。今回初めて挑戦する曲ですがとても楽しみです」
 豪州出身のサラは、まずヴァイオリンを嗜み、その才能をかのシモン・ゴールドベルクの高弟ペリー・ハートに見出されたという。今回「オペレッタ」でソプラノの砂川涼子が歌う《メリー・ウィドウ》の〈ヴィリアの歌〉は最初に演奏した想い出の曲だとか。シドニー大学で優秀な成績を修め、同国を代表して東京大学に留学。東大在学中から語学の才能をいかして多方面で活躍。人気ゲームソフトのエンディング曲の歌手に起用され、注目を集めた才媛だ。
「歌も大好きで、シドニー音楽院でギルバート&サリヴァンのオペレッタ《ペンザンスの海賊》の主役に抜擢されて以来、音楽劇にも興味を持っています。いつか舞台でバーンスタイン『ウエストサイド物語』のマリア役をやってみたいですね。この『音楽劇紀行』ではクラシックのファンにミュージカルの魅力を伝えたいですし、その逆も期待できます。頑張ります!」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ 2016年10月号から)

中嶋朋子が誘う音楽劇紀行 バロック・オペラからミュージカルへ
〜音楽劇の歴史を追う 第二夜〜古典派オペラ
12/14(水)19:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp