マレイ・ペライア(ピアノ)

選曲の中に人生経験と現在の思いを見る

©Felix Broede

©Felix Broede

 若いころからホロヴィッツ、ホルショフスキといった歴史的な演奏家と交流を持ち、その薫陶を受けてきたペライア。磨き込まれた音の美しさと端正かつ実直なアプローチは早くから評価されてきた。とはいえ90年代以降はたびたび指の故障に悩まされるなど、その道のりは決して平たんではなかった。近年、厳しいコントロールの下でもますます自由に呼吸する境地に達してきたのは、このプロセスがあればこそだろう。
 今回はとりわけ、現在のペライアの胸中を推し量りたくなるプログラムだ。憂いを帯びたハイドンの「アンダンテと変奏曲」の後に、モーツァルトのソナタ第8番。母の死と前後して作曲されたと言われ、激しいパトス、疼きにも似た感情が心を打つ。短調の古典派2曲に続けて、ブラームスの晩年のop.116・118・119のピアノ曲集から5曲。どれも柔和でこなれた表情を持つが、ニュアンスは一つ所にとどまらず刻々と変化し、光と影の微妙な交錯を捕まえていく。
 そして後半はベートーヴェンの「ハンマークラヴィア」。高い集中力を40分以上に渡り保持しながら、スケールの大きな音楽を紡がなければならない。音楽表現の可能性を押し広げた記念碑的な作品だ。青年期の憂いや悲しみ、穏やかでありながら複雑な老年の胸中を対比させた前半から、巨大な伽藍を打ち立てる後半へ。ここにペライアの人生経験や、現在の思いを見るのはうがちすぎだろうか。
 サントリーホールは音が良く残り、生き生きしていて、聴衆も真剣。ペライア自身、とても気に入っているホールだという。滋味あふれるピアニズムに浸りたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2016年10月号から)

10/31(月)19:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp

他公演
10/28(金)浜離宮朝日ホール(03-3267-9990)

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