室内楽やピアノ曲から見えてくる山田耕筰の美学
今年生誕130年を迎える山田耕筰は戦前、唱歌・軍歌・童謡にはじまり管弦楽曲からオペラまで旺盛に創作しただけでなく、楽団運営から政治との関わりに至るまで、まさに音楽界のボスとして頂点に“君臨”していた。明治・大正・昭和を生き、日本における西洋音楽の礎を築いた巨人だが、一部の歌曲を除いてその創作実態を知る人はあまりいないだろう。それもそのはず、楽譜の出版が本格化したのすら今世紀に入ってからという状況だったのだ。しかし、その全貌をうかがう環境がようやく整ってきた。
アニヴァーサリー・イヤーに山田の出生地である文京区のシビックホールが『山田耕筰の音楽』と題したコンサートを企画している。
合唱(NHK東京児童合唱団 他)が披露する、三善晃編曲「山田耕筰による五つの歌」では、西洋のスタイルに拠りながら、日本語の自然な抑揚と美を引き出した歌の世界に、とっぷりと浸ることができるだろう。また、メゾソプラノの高橋由樹のソロで「この道」をはじめとする名曲も歌われる。一方、他の選曲はちょっとひねりが効いている。まず2曲のピアノ曲「哀詩―荒城の月を主題とする変奏曲」、「子供とおったん」より(ピアノ:浅井道子)。いずれもベルリン留学から帰った少し後の作品で、「哀詩」では瀧廉太郎の旋律がロマン派的に色づけられていく。3曲の弦楽四重奏曲(YAMATO String Quartet)は、いずれも留学前に書かれたもの。第1番・第3番は未完、第2番は単一楽章で、西洋音楽の語法を吸収するプロセスが生々しく表れている。
名歌曲が生まれる“根っこ”にどのような歩みがあったのか、これらの作品を通じて確認したい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2016年9月号から)
10/2(日)15:00 文京シビックホール(小)
問:シビックチケット03-5803-1111
http://bunkyocivichall.jp