新境地を示す新シーズンの幕開け
創立60周年を迎えた日本フィルの新シーズン最初の東京定期演奏会に、山田和樹が登場する。同楽団の指揮者陣は依然充実。新首席指揮者インキネン、主にロシアもので数多くの名演を残しているラザレフとの関係を継続し、山田和樹も正指揮者の契約を2022年まで延長した。今秋モンテカルロ・フィルの芸術監督兼音楽監督に就任し、先のバーミンガム市響の日本公演でも生気溢れる名演を展開した“世界のヤマカズ”との関係維持は、ファンにとっても朗報。なぜなら彼が、「今やりたいことが一番できるオーケストラ」と語る日本フィルで、他にないプログラムを実現させているからだ。
9月の定期も然り。まずは生誕100周年・没後20周年を記念した柴田南雄の「コンソート・オブ・オーケストラ」で、多彩な楽器の絡み合いが独特の音響世界を形成する作品の、生でこその妙味が示される。2曲目はR.シュトラウスの「4つの最後の歌」。今最も輝くメゾソプラノ歌手の一人、清水華澄(かすみ)を迎えて人生の黄昏が美しく描かれる。後半は、同楽団が日本初演を行ったエルガーの大作・交響曲第1番。Bunkamuraでのマーラー・ツィクルスで、細部の息吹と構築感を併せ持つ演奏を聴かせているコンビの大曲での手腕が存分に発揮される。
異次元的な柴田の音楽、ロマン派の「最後の歌」でもあるシュトラウスの清澄な音楽、逆に英国でロマン派的な交響曲の幕開けを告げたエルガーの雄大な音楽…と何れも20世紀の作品だが在り方は全く異なる。温故知新を重視しながら前世紀音楽の多面性を浮き彫りにする当コンビならではの内容は、大いに食指をそそられる。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2016年8月号から)
第683回 東京定期演奏会
9/2(金)19:00、9/3(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp