第88回 N響オーチャード定期

新時代の星が熱く照らす望郷の名作

 また新しい才能が姿を現わす。3月のN響オーチャード定期を振るのは、日本初登場のスタニスラフ・コチャノフスキー。ドゥダメルと同じ1981年生まれ。サンクトペテルブルク出身、ロシア音楽界期待の星である。当地の音楽院で学んだ彼は、2007年から地元のミハイロフスキー劇場で活躍し、60公演ものオペラやバレエを指揮。その後マリインスキー劇場にも進出し、10年にサフォノフ・フィルの首席指揮者に就任した。13年には白夜祭にもデビュー。すでにサンクトペテルブルク・フィル、サンタチェチーリア国立管、フランクフルト放送響などの世界的楽団に客演し、配信されている動画では、的確なタクトで濃密かつエネルギーに充ちた演奏を展開しているから、期待値は相当高い。
 今回彼は、常道と思えるロシアものではなく、「オール・ドヴォルザーク・プログラム」で臨む。しかもチェロ協奏曲と交響曲第9番「新世界より」の2大看板。これも自信の表れといえるだろう。チェロは同じ1981年英国生まれのガイ・ジョンストン。米英で学び、00年にBBCヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた彼は、ロンドン・フィル、BBCフィル、バーミンガム市響、大阪フィルなどと共演し、プロムス・デビューでも注目を集めた。気品を湛えながらも濃厚な彼のチェロで聴く名協奏曲も大いに楽しみだ。
 パーヴォ・ヤルヴィの着任以来さらに充実を極めるN響の演奏で、旋律美に満ちたドヴォルザークの2大傑作を聴けるなら、これだけでも足を運ぶ甲斐はある。ここは土曜午後の渋谷で幸せな気分に浸ろう!
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年2月号から)

3/5(土)15:30 Bunkamuraオーチャードホール
問:Bunkamuraチケットセンター03-3477-9999
http://www.bunkamura.co.jp