シリーズ初のホール&共演者でさらなる高みへ
チェロの山崎伸子が2007年から毎年継続している全10回の『チェロ・ソナタ・シリーズ』は、バッハの無伴奏やベートーヴェンを始めとする主要なチェロ・ソナタを網羅的に演奏するリサイタル・シリーズだ。11月の公演で第9回となり、いよいよラストスパートだが、今回は2つの新たな変化を迎える。
まずひとつは会場。昨年までの本拠だった津田ホールが閉館したため、今回から浜離宮朝日ホールに場を移しての開催となる。
「浜離宮で弾くのは久しぶりなのですが、以前より響きがよくなったみたい。音が気持ちよく馴染んできた感じがするので、とても楽しみにしています」
実は、浜離宮朝日ホールは昨年の夏にステージの床を張り替えているので、それも響きの変化に大きく関係しているのだろう。
「客席との距離も近いですし、天井が高くて空間が広いので、毎回来てくださっているお客さんにもまた新しい世界が広がり、響きの違いを楽しんでいただけるのではないかと思います」
そしてもうひとつの新しい要素が共演ピアニスト。初共演となる加藤洋之を迎える。
「ステージでの演奏はお聴きしていましたが、お話したのは今回が初めてです。本当に音楽が好きだという気持ちが演奏からにじみ出てくる方。作曲家の心情を理解して共感しようという思いの強さを感じます。今回、シューマンの『民謡の主題による5つの小品』を演奏するのですが、これがたいへんな曲者で、すごく難しいんです。加藤さんにお願いした一番の理由は、このシューマンがあるから。一緒に弾くことでいろいろなヒントをもらえるんじゃないかと思いました」
曲目はシューマンの他、バッハの無伴奏組曲第3番、ヤナーチェクの「おとぎ話」とショパンのソナタ。ドイツから東欧への旅だ。バッハの無伴奏は、当シリーズの中で全6曲を弾く計画で、これで来年に第6番を残すのみとなる。
「演奏者の皆さんがおっしゃるでしょうけれど、バッハは一生弾いていく作品です。“語るように弾く”のが若い頃からの理想なのですが、なかなかできなくて。余分なものをつけない、自分が『1』と思ったら『1』だけを音にするという意味なのですが、それはとても難しい行為なんです。思わず歌ってしまってどうしても余分なものがついてしまったり、反対に『1』にならかなったりね。それをなるべくイコールに近づけなければなりません」
気取らず飾らず、淡々と語る話しぶりに、音楽への真っ直ぐな姿勢が重なる、魅力的な音楽家だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)
チェロ・ソナタ・シリーズ 第9回(全10回)
山崎伸子 チェロ・リサイタル with 加藤洋之(ピアノ)
11/20(金)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu