
バンドネオン奏者、小松亮太にとってピアソラの《ブエノスアイレスのマリア》はライフワークとも言うべきプロジェクトだろう。2013年にこの作品の初演者であり、ピアソラの元妻でもある歌手アメリータ・バルタールを迎えての上演が実現。2023年には川口総合文化センター・リリアにて上演され、アメリータの愛弟子でもあるSayaca、古典からピアソラまで精通したKaZZmaという日本人キャストが見事に歌いきって話題となった。
そして今年、川口リリア リオープン記念企画として、9月に2日間にわたる再演が決定。2023年とほぼ同じ布陣で、Sayaca、KaZZmaをはじめ、アンサンブルには黒田亜樹(ピアノ)、近藤久美子(ヴァイオリン)、鬼怒無月(ギター)、ヤヒロトモヒロ(パーカッション)など強力なメンバーが並ぶ。さらに今回は舞台俳優として活躍中の片岡正二郎が日本語の語りを担当する(歌は原語での上演)。
全2部計16曲からなる大作《ブエノスアイレスのマリア》は、「タンゴ・オペリータ(小オペラ)」と呼ばれるが、いわゆるクラシックのオペラとは異なり、「ピアソラだけでなくアルゼンチン・タンゴ全体を俯瞰し、熟知した人間でなければ演奏できない」と小松は語る。なぜならこの作品には、ピアソラを生み出した、ピアソラ以前のタンゴの血脈が息づいているから。1960年代後半のブエノスアイレスの、独特な歪みと慈しみを持った社会と人々の精神をシュールに描いた一大絵巻を、このメンバーだからこその鮮烈な演奏で体感したい。
文:原典子
(ぶらあぼ2026年7月号より)
小松亮太 タンゴ・オペリータ《ブエノスアイレスのマリア》 アストル・ピアソラ(オラシオ・フェレール作詞)
2026.9/12(土)、9/13(日)各日15:00 川口総合文化センター・リリア 山伸サステインホール(音楽ホール)
問:リリア・チケットセンター048-254-9900
https://www.lilia.or.jp

原 典子 Noriko Hara
音楽ジャーナリスト/編集者/ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、フリーランスに。坂本龍一監修の音楽全集『commmons: schola』の編集を担当。2021年にWebメディア『FREUDE』を立ち上げる。アーティスト・インタビューやレビュー記事執筆のほか、公演プログラムや企業オウンドメディアの編集、コンサートの企画運営などを行なっている。鎌倉在住。
https://freudemedia.com

