今秋の2週間にわたる「ヨーロッパ・ツアー2025」を控えた東京フィルが、2026-27シーズンのラインナップを発表した。まず「26-27」について補足が必要だろう。これまで東京フィルのシーズンは1月始まりだったが、次は2026年1月から27年3月(公演は2月)まで。
シーズン期間が長くなり、さらに東京オペラシティ コンサートホールが1月から6月まで改修で休館となるため、3会場の公演数も変則的だ。近年は各定期が3回ずつだったが、次シーズンは7月と10月のみ3回開催で、他の月は2回ずつとなる。
その上でシーズンを概観すると、代表的名曲が各回に配されていることが目立つ。ヨーロッパ・ツアーを経た東京フィルの充実ぶりが示されるはずだし、豪華指揮陣の得意演目が並ぶことで、新たに名曲たちと向き合える場ともなりそうだ。

ピンカス・ズーカーマン 以上4点 ©上野隆文/小林研一郎 ©K.Miura
開幕の1月は首席指揮者アンドレア・バッティストーニが、レスピーギ「ピアノと管弦楽のためのトッカータ」とマーラー交響曲第1番「巨人」を指揮。前者のピアニストは五十嵐薫子。ジュネーヴのコンクール第3位はじめ、いま旬を迎える俊才が、実演稀少な難曲のソロに挑む。バッティストーニと東京フィルの「巨人」は2014年以来で、それ以降マーラー演奏を重ねてきた彼らの現在地が示される。
2月は名誉音楽監督チョン・ミョンフンが登壇。ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番、メンデルスゾーン「スコットランド」交響曲ほかの19世紀ドイツ名曲集で、ブルッフは若き名人・岡本誠司のヴァイオリンが、マエストロと共に熱演を作り上げる。
次は5月。再びバッティストーニがマーラーを取り上げる。旋律美と歌心に満ちた交響曲第4番で、彼の特長が存分に生きる演奏になるだろう。前半は彼の編曲によるシューマン「子供の情景」(世界初演)で、メイン曲との関連も興味深い。
6月は巨匠ピンカス・ズーカーマンが今シーズンに続き再登壇。彼の指揮とヴァイオリンによるモーツァルト・プロで、ヴァイオリン協奏曲第3番、交響曲第40番ほかを。今年の「ジュピター」が大変な快演で会場も湧いただけに、来年にも期待が高まる。
7月はチョン・ミョンフンによる演奏会形式の《カルメン》。27年にミラノ・スカラ座音楽監督に就任するマエストロのオペラはより注目となるし、コロナ禍直前の20年2月にも同演目で名演を残しており、人気演目の再演で「オペラの面白さ」を改めて知らしめる舞台となる。
8月は小林研一郎が登壇し、R=コルサコフ「シェエラザード」ほかを指揮する。ますます円熟を深める巨匠による、華麗な色彩感と厚い(かつ熱い)響きを堪能したい。昨年10代でネルソンス指揮ボストン響と共演した、若きヴァイオリニスト若尾圭良のメンデルスゾーンの協奏曲も期待大。

若尾圭良/マキシム・ヴェンゲーロフ ©Davide Cerati
10月はチョン・ミョンフンと世界的ヴァイオリニスト、マキシム・ヴェンゲーロフが登場。両者と東京フィルは今秋ヨーロッパ・ツアーでも共演予定で、早くも1年後の再共演で雄大なシベリウスを披露する。メインはベートーヴェン交響曲第7番。マエストロの振る本作は、間違いなく特別な演奏になる。
11月は特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフが登壇し、自作の「14の音楽的記憶」(2024)を披露する。メインはチャイコフスキー交響曲第4番で、彼ならではの濃密なロシア情緒と巨大な構築で、圧巻の演奏になるに違いない。
2027年1月はウィーン・フィル首席ファゴット奏者で、近年は指揮者としても活躍するソフィー・デルヴォーが登場。ウェーバーの協奏曲の“吹き振り”で美音を聴かせ、ブラームス交響曲第1番などで清新な音楽性を示す。
シーズン最後の2月はチョン・ミョンフンによる、サン=サーンス交響曲第3番「オルガン付き」ほか。フランス音楽にも精通するマエストロによる、華やかな快演でシーズンを締めくくる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年11月号より)
東京フィルハーモニー交響楽団 2026-27シーズン定期演奏会
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
https://www.tpo.or.jp
※2026-27シーズンの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。


