時代を超えたサティの魅力を感じてほしい
異端の作曲家エリック・サティ。その存在は、当時の音楽家のみならず様々な分野の芸術家たちに影響を与え、今もなお人々を魅了し続けている。そんなサティの活動を、同時代に生き、刺激を与え合った芸術家による絵画などの作品や資料を通して体感できる展覧会が、7月8日からBunkamuraザ・ミュージアムで開催される。この展覧会では、東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科の受託研究として、サティの第一人者である高橋アキのピアノ演奏を用いて「スポーツと気晴らし」の映像・音響制作を行い、場内で聴かせる試みも行われる。
高橋アキといえば80年代に起こったサティブームの立役者としてのイメージが強いが、彼女自身はそれ以前の「まだ誰も日本ではサティに見向きもしなかった頃」からサティをリサイタルで取り上げ、一時のブームが去った今でも、「好きだから」と弾き続けているピアニストだ。ある時ジョン・ケージが「サティはキノコと同じで、もう食べ飽きたと思ってもまたしばらくして食べたくなるものだ」と語ったそうだが、高橋アキは「サティの音楽というのは、キノコの胞子が空気中に飛んで、それがどこかに着床してまた生えてくるキノコのようなものかな」と話す。そして、サティの魅力をこのように語った。
「サティの音楽は印象派やロマン派といった様式の区分を超越しており、そういう意味で、彼は本当の天才だと思います。例えばドビュッシーを聴くと印象派だなと思ったり、ワーグナーを聴くとロマン派だなと思ったりしますが、サティの音楽は中世の音楽のようでもあり、最近の環境音楽のようでもある。それは、彼が独自の音楽を作り続け、時代の流れに逆らい、常に新しい可能性を求めてきたからでしょうね。たいていの作曲家は、ある自分のスタイルを作って成功すると、ずっとそのスタイルから離れませんが、サティは『経験は停滞の一形式である』と言って常にゼロからスタートさせる。そんなサティの実験精神に共感し、尊敬します。また、“虚飾のない簡潔な音楽”というところにも惹かれます」
サティの音楽には、古くもありながら、どこか新しさを感じさせてくれる響きがある。
「80年代に私がサティを弾いていたら、サティは現代音楽だとか、まだ生きている作曲家だなんて思った方もいらしたようです。『たいへん年をとった時代にわたしは若くうまれた』とサティが言うように、彼は時代とのギャップを感じていた。だから、いつになっても彼の音楽は新鮮に響くのかもしれないですね」
同時代にも、そして時を超えても様々なアーティストに影響を与えたサティ。
「例えばサティの初期の作品『サラバンド』のハーモニーの移り変わりなどは印象派の先駆けのようにも言われているし、対位法を勉強し直して簡素な音楽になると『フランス六人組』に受け入れられたりしました。『家具の音楽』などは後のBGMだとかミニマルミュージックのアーティストに影響を与えていると思うのですね。サティ自身が常に変遷してきているから、新しい時代が来ても、みんなサティのどこかしらの一面に、影響を受けるところがあるのでしょう」
多面体のエリック・サティ。今回のBunkamuraザ・ミュージアムの展示では、サティの新たな一面との出会いが待っていそうだ。
取材・文:鈴村真貴子
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年6月号から)
異端の作曲家 エリック・サティとその時代展
7月8日(水)〜8月30日(日) Bunkamura ザ・ミュージアム
会期中無休
月〜木・日曜日 10:00〜19:00 金・土曜日 10:00〜21:00
入館は閉館時間の30分前まで
問:ハローダイヤル03-5777-8600
http://www.bunkamura.co.jp