クレッシェンドしたオーケストラによる同じ音をピアノが引き継ぐ。そのまま減衰していくだけのピアノの音。何かが始まるような予感をさせたまま、それが16分にわたって繰り返される。徹底的に切り詰められた素材とコンセプト。それがなんともいえない抒情さえ感じさせる「時の形」を収めた、1983年発売のアルバムの初CD化だ。ハープとギターがユニゾンで演奏し、不思議な立体感で迫る「二重奏曲」なども収録。いずれも、音と音楽の境界のギリギリを攻め、それゆえに音楽の豊かさを素裸のままで出す近藤譲ならではの世界が堪能できる。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2024年12月号より)
【information】
CD『近藤譲:「時の形」「撚り III」「二重奏曲」「静物」』
近藤譲:時の形、撚り III、二重奏曲、静物
高橋アキ(ピアノ) 小林健次(ヴァイオリン) 篠﨑史子(ハープ) 佐藤紀雄(ギター)
黒岩英臣(指揮)
NHK交響楽団
コジマ録音
ALCD-27 ¥3080(税込)