アンティ・シーララ(ピアノ)

常に進化し続けるピアニストの“いま”

©Volker Beushausen

©Volker Beushausen

 リーズ国際をはじめ多くのコンクールを制し、フィンランドが誇る俊英ピアニストとして世界の注目を集めるアンティ・シーララ。「ピアノは、異なる音楽の世界の探索への好機を与えてくれるし、その開拓の可能性は尽きない。これは恐ろしくもあるが、私を奮い立たせる」と語る。常に進化し続ける彼の“いま”を捕まえたい。
 ヘルシンキ出身で、名門シベリウス・アカデミーで学んだ。
「プロになろうと思ったのは、真剣に練習に打ち込み始めた10代前半の頃。私は決して、“神童”タイプではありませんでした」
 フィンランド人としてのアイデンティティを「言語や文化的背景の影響は、大きいでしょう。しかし最終的には、各々が音楽を創りだす上で、どう方向性を見つけ出すかに尽きます。自分の音楽への向き合い方こそが最も重要です」と語る。
 来日リサイタルで冒頭に置いたのは、「最も好きな作品」というシューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」。
「架空の人格である“フロレスタン”と“オイゼビウス”とが交互に語らい、クララとの結婚に向けての興奮、ポエジー、不思議な演奏指示など、若きシューマンが抱いていた多くの要素が盛り込まれ、弾き手や聴き手を退屈させることなく、ひとつの音楽の旅へと収斂してゆく。素晴らしい作品です」
 そして、「抽象的な作品を置きたかった」という後半。まずは、最新盤にも収録したベートーヴェンのソナタから、第31番を弾く。
「最後の3作品の中では、これが最も私的で深遠。シューマンの世界観とも共鳴する。とりわけ、有名な最終楽章の『嘆きの歌』とフーガの並置は特異。自己の魂を剥き出しにし、古いフーガの形式美と安定感に、彼は希望を見出そうとしたのでは」
 締め括りは、スクリャービンのソナタ第10番。
「ベートーヴェンのソナタ第31番の後には、よく第32番が演奏されますが、この作品とスクリャービンの第10番は、全く違った語法ながら、共通点を感じます。共にトリルが象徴的な役割を担い、ベートーヴェンの第2楽章の優美な心情は、スクリャービンの作品にも見出せる。そして、神秘主義と個人的感情とが、興味深い対比も生みます」
 さらに、協奏曲のソリストとしても登場。まずは「弾く度に新しい発見がある」というシューマンの佳品を、京都市響と。そして、「最も純粋な形で、作曲家の大胆な一面を表現した一種の集大成」と評するベートーヴェンの第5番「皇帝」で読響と共演。「日本の音楽家や聴衆は、音楽に対して誠実。待ち遠しいですね」と話す。
 古典から現代まで、幅広いレパートリーに挑戦を続け、後進の指導にも力を注ぐ。
「ピアニストの特権であり、難しさでもあるのは、制限なくレパートリーを模索できる点。演奏家として、教師として、もっと多くを学び、今後取り組む作品をより深く理解できるよう励んでいきたいです」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年6月号から)

リサイタル 
6/30(火)19:00 浜離宮朝日ホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831

小泉和裕(指揮) 京都市交響楽団 第591回定期演奏会
6/26(金)19:00 京都コンサートホール
問:京都コンサートホール075-711-3231

読響×夏のベートーヴェン!
園田隆一郎(指揮) 読売日本交響楽団
7/4(土)15:00 かつしかシンフォニーヒルズ
問:かつしかシンフォニーヒルズ03-5670-2233