ブルックナー生誕200年だった昨年から、第8番初稿の実演が複数実現している。なかでもN響の同稿初演奏は象徴的な名演となった。第2稿と比べて洗練されずに荒削りと見なされていた初稿が、ルイージの手にかかると流麗でしなやかな歌にあふれ、熱いドラマが生まれ、最初のアイディアのすばらしさに自然な感動が湧き上がる。マエストロと初稿の相性がぴったりだし、慣れない稿でも精密かつ共感をもって構築できるのがいまのN響だ。最良の意味での“ブル8初稿のエンタメ性”を明らかにした快演の記録で、好事家に限らず、初稿に興味を持ち始めた人にこそお薦めしたい。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年7月号より)
【information】
CD『ブルックナー:交響曲第8番/ファビオ・ルイージ&N響』
ブルックナー:交響曲第8番(初稿)
ファビオ・ルイージ(指揮)
NHK交響楽団
収録:2024年9月、NHKホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00868 ¥3850(税込)

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。