ラフマニノフの「死の島」と、ショスタコーヴィチの「バービイ・ヤール」。この2曲をエリアフ・インバルが指揮すると聞くだけで、胸が高鳴る。
「死の島」は、ベックリンの同名の油彩画に触発された交響詩。柩らしきものを載せた小舟が、墓所と思しき小島に近づく。舟を揺らす波のうねりが音楽を支配し、暗鬱な雰囲気のなか、ラフマニノフが偏愛したグレゴリオ聖歌「怒りの日」のテーマが、最後に響く。
「バービイ・ヤール」は、旧ソ連の反体制詩人エフトゥシェンコの詩に、ショスタコーヴィチが音楽をつけた交響曲。タイトルとなったのはウクライナの地名で、ナチス・ドイツによってユダヤ人大量虐殺が行なわれた場所。そこにある追悼碑は、2022年に開始されたロシア軍によるウクライナ侵攻の際、ミサイル攻撃を受けたという。正義はどこにあるか。声を張りあげる人々の立場により、あやふやに揺れ動く。そのさなか、詩人は時を超え、皮肉と反語にみちた詩をつぶやく。ショスタコーヴィチの音楽の陰鬱なユーモアは、表面の美辞麗句とは裏腹の真意、面従腹背を、ひたすらに暗示し続ける。
都響がロペス=コボスの指揮でこの曲を鮮烈に演奏した2013年の響きを、筆者はいまも憶えている。それがインバルの指揮で甦る。ロシアに生まれて今はベルリンを本拠とするバス歌手、グリゴリー・シュカルパと、ロシアの脅威を肌で感じているであろうエストニア国立男声合唱団の歌声と、ともに。楽しみだ。
文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2025年2月号より)
エリアフ・インバル(指揮) 東京都交響楽団
第1016回 定期演奏会Aシリーズ
2025.2/10(月)19:00
都響スペシャル
2025.2/11(火・祝)14:00
東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp