戦後日本で生まれた傑作&秘曲を集めて
今をときめく世界中の指揮者たちが在京オーケストラに連日のようにやってくる素晴らしい時代だ。しかし邦人作品の演奏機会は、ひところに比べるとめっきり減ってしまった。外国人シェフは日本の作曲家のことをよく知らない場合が多く、グローバリゼーションは、その土地の文化を廃れさせる恐れがある。このままでは寂しいではないか…。
そんなリスナーの溜飲を下げてくれる企画を紹介しよう。日本フィルハーモニー交響楽団は創立時から気鋭の作曲家に新作を委嘱する『日本フィル・シリーズ』を継続してきた。委嘱を受けた作曲家たちはこぞって力作を提供し、戦後を代表する名曲が次々と生み出されたが、その後再演機会に恵まれず忘れ去られたものも少なくない。下野竜也がこの宝の山から埋もれていた名品を掘り起こし、大喝采を浴びたのは2012年7月の定期でのこと。その後も同団はこつこつと蘇演に取り組んできたが、この5月に「オール・日本フィル・シリーズ・プログラム」が再び実現する。指揮はもちろん下野だ。
黛敏郎の「フォノロジー・サンフォニック」はシリーズのスタート前年、1957年の同団第2回定期で演奏された、いわばシリーズの第0作ともいうべき作品で、反復される金管のモティーフを軸にオーケストラがダイナミックに爆発する。木管楽器に焦点を当てた林光「Winds」は24作目として1974年に初演。今回は82年の改訂版での演奏となる。「霧の果実」(第35作)は一昨年世を去った三善晃の晩年を代表する交響四部作の一つで、錯綜した音響世界が聴き手を精神の深みへと誘う。そして最後を飾るのはシリーズ第一作、矢代秋雄「交響曲」。フランス風の和声をがっちりとした構成が支える、邦人交響曲の金字塔だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年5月号から)
第670回 東京定期演奏会
5/15(金)19:00、5/16(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp