“グレート・ジャーニー”のクライマックス
ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会は、決して珍しくない。だがこの公演は意味が違う。抜群のテクニックと綿密な解釈で世界的評価を得ているトップ・ピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネスが、4年をかけて行ってきたプロジェクトのクライマックスなのだ。彼は、2012年からベートーヴェンのピアノ協奏曲を世界各地で演奏する『ベートーヴェンへの旅』を開始した。それは55都市で150回以上の公演を開催する一大プロジェクト。しかも、12年は1&3番、13年は2&4番、14年前半は5番を、弾き振り及び様々な指揮者&楽団との共演で演奏し、14年後半からマーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)を弾き振りして全曲ツィクルスを行うという周到な段取りで実施してきた。そして5月の日本公演は、MCOとの全曲演奏の8回目にあたる。つまり今回は、多様な経験を踏まえて練り上げられた究極の解釈を耳にすることになる。
道中でCD録音も行われ、昨秋完結した。それを聴くと、明確にして清冽なタッチで紡がれるニュアンスに富んだ演奏に感嘆させられる。情感豊かでのびやかな、雄弁さと美しさを併せ持つベートーヴェン…。これは滅多に聴けるものではない。亡きアバドの信頼を得ていた実力派集団MCOとの自然な呼吸感も特筆もの。今回はこの名奏を、いや更に深化した音楽を生で味わえる。
「ベートーヴェンの協奏曲は、あらゆるフレーズに意味があり、驚きもある」とアンスネスは言う。最高のピアニストが、最高の作曲家の名作を、最高の状態で聴かせる本公演は、聴き手にとっても記念碑的な体験となるに違いない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年4月号から)
5/15(金)19:00 第2番・第3番・第4番
5/17(日)14:00 第1番・第5番「皇帝」
東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp