没後100年の命日に捧げるオール・フォーレ・プログラム
INTERVIEW 伊藤悠貴(チェロ)&中村愛(ハープ)

左:伊藤悠貴さん 右:中村愛さん

取材・文・写真:編集部

 近代フランスを代表する作曲家ガブリエル・フォーレの没後100年の命日に(11/4)、浜離宮朝日ホールでチェロとハープによるオール・フォーレ・プログラムのリサイタルが開かれる。
 舞台に立つのは伊藤悠貴さんと中村愛(めぐみ)さん。伊藤さんはブラームス国際コンクール、ウィンザー祝祭国際弦楽コンクールで第1位、齋藤秀雄メモリアル基金賞などの受賞歴を誇る気鋭のチェリスト。レパートリーの中心にラフマニノフを据え、昨年は学術単行本『ラフマニノフ考』を上梓するなど、この作曲家の研究をライフワークとしている。中村さんはハープのオリジナル作品の演奏にとどまらず、知られざる名曲の発掘や編曲にも積極的に取り組む。
 二人は2年前、浜離宮朝日ホールで初めてデュオ・リサイタルを開催。それ以降、共演を重ねている。

 伊藤さんにとってフォーレは、ラフマニノフをはじめマーラーやエルガーと並んで深く敬愛する作曲家のひとりだという。公演当日が没後100年の命日という巡りあわせと、「オール・フォーレ、他の作曲家の曲を入れたくなかった」という二人のフォーレ愛からこの企画は生まれた。

 10月某日、リハーサルを終えたばかりの二人に話を聞いた。

——メインで演奏されるフォーレの「レクイエム」は、2年前のリサイタルのために中村さんが編曲されたそうですね。

中村 オーケストラでこの作品を演奏したことがありますが、フォーレ独特のポリフォニーに当初から魅力を感じていました。チェロとのデュオに編曲する過程で、内声の美しさなど新たな発見がいくつもあり、実際に演奏して「この編成でもこんなに素晴らしい演奏ができるんだ」と自分でも驚きました。

伊藤 僕も「レクイエム」は以前から大好きな作品で、中村さんの編曲も素晴らしかったので早く再演したいと思っていました。今回は「レクイエム」以外にも私たちが編曲した作品を取り上げます。

中村 この編成で「レクイエム」を演奏する時、演奏会場はとても重要。大きなホールだと音色が吸収されてしまいますし、小さくても難しい。浜離宮朝日ホールのサイズ感がちょうど良いのです。なおかつこのホールは響きが芳醇なのでフォーレの持っているオルガン的なニュアンスが出しやすい。私たちにとってベストなホールです。

——他にはどんな作品を演奏されるのですか?

伊藤 前半には「蝶々」や「セレナーデ」など、チェロのために書かれた作品も演奏します。なかでも注目は「アンダンテ」。この曲をもとに書かれた「ロマンス」は比較的取り上げられることが多いですが、原曲は世界的に見てもほとんど演奏されていません。チェロとオルガンがオリジナルの編成ですが、チェロとハープでも良いエフェクトが得られると思います。今日のリハーサルで感覚をつかめたので本番も良い演奏ができると思います。

 一押しは、前半の最後に弾く「幻想の水平線」。晩年、耳が聞こえなくなってきたフォーレが最後に書いた歌曲集で、これも演奏機会の少ない名作です。彼がたどり着いた世界を伝えたいです。
 初期の作品から晩年の「幻想の水平線」までを通して作曲家の生涯を辿ることのできるプログラムになっています。この機会にフォーレの世界観を感じていただきたいです。

【Information】
中村愛(ハープ) & 伊藤悠貴(チェロ) 
オール・フォーレ・デュオリサイタル

2024.11/4(月・休)14:00 浜離宮朝日ホール

プログラム
G.フォーレ:シシリエンヌ op.78
       セレナーデ op.98
       蝶々 op.77
       ハープのための初見試奏曲(日本初演)☆
       無言歌 op.17-3(A.アッセルマン編) ☆
       ドリーの子守歌 op.56-1(M.カーン編) ☆
       ドリーの庭 op.56-3(中村愛編)
       幻想の水平線 op.118(フォーレ最後の歌曲集/伊藤悠貴編)
       アンダンテ(ロマンス op.69のオリジナル版)(日本初演)
       レクイエム op.48(中村編)
☆=ハープ独奏

問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/