知と悦びの探究者2人が初共演で描くロマン派の調べ
イタリアのチェロ奏者マリオ・ブルネロ(1960年生まれ)、日本の鍵盤楽器奏者の川口成彦(1989年生まれ)の年齢差は親子ほどに開いている。しかし中世・ルネサンスから現代に至るまですべての音楽に対する旺盛な探究心、人生全般の楽しさを極めるライフスタイル、その点でしっかりと同じ土俵に立つ。10月24日、紀尾井ホールのデュオ・リサイタルでは古典派からロマン派まで「5人の作曲家の4曲」を並べ、川口はプレイエル(1843年)とクレーマー(1825年)、2台のフォルテピアノを弾き分ける。
ブルネロはかつて、1986年チャイコフスキー国際コンクールでイタリア人初の1位に輝いた俊英チェロ奏者と、ごく普通に紹介されたが、アリオン音楽財団理事長の故・江戸京子がさらなる可能性を見抜き、多彩なプロジェクトに起用して「特別な音楽家」の評価を得た。今年5月に行われた江戸を偲ぶ会では、ブルネロがイタリアで録画した追悼のメッセージと演奏が流された。同財団の解散(2013年)後は紀尾井ホールとの関係をさらに深め、紀尾井シンフォニエッタ東京・紀尾井ホール室内管弦楽団の指揮台に立ったこともある。カステルフランコ・ヴェネトの自宅の庭園に音楽堂をしつらえてワインもつくり、富士山頂を含む世界の大自然の中でバッハを弾いてきたブルネロの人と音楽は、確実に音のエピキュリアン(快楽主義者)、川口のテイストと合致する。
プログラムはショパンとメンデルスゾーン、2つのソナタを軸に、メンデルスゾーンの姉ファニーの小品、モーツァルトの《魔笛》に触発されてベートーヴェンが書いた変奏曲の1つを組みあわせ、2つの楽器のデュオの歴史も俯瞰できるように組まれている。
文:池田卓夫
(ぶらあぼ2024年9月号より)
2024.10/24(木)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp
https://kioihall.jp