アニバーサリーを祝うスペシャルイベント
ル・コルビュジエの弟子で、丹下健三の師である建築家・前川國男(1905〜86)。彼にとって東京文化会館と並ぶ代表作と呼べるのが1954年に開館した神奈川県立音楽堂である。当時、東京大学生産技術研究所にいた20代の石井聖光(後の東大名誉教授)と組んで前川が作り上げた「木のホール」は、ソプラノ歌手エリーザベト・シュヴァルツコップやピアニストのスヴャトスラフ・リヒテルといった20世紀を代表する偉大な音楽家たちからその音響を絶賛されたことでも知られる。オーケストラも公演を行っているが客席数は1000程度と親密で、温かみがありつつも響きは明晰。細部まで演奏を味わい尽くすことができる、今も現役の音楽ホールだ。
今年70周年を迎えるにあたり、記念プログラム「開館70周年記念週間」が組まれているので是非ともご注目いただきたい。中核をなすのは開館日当日、11月4日に開催されるガラコンサート「紅葉坂の四季」だ。今年91歳、まさしくリビングレジェンドという言葉が相応しい小林道夫(チェンバロ)を筆頭に、世界に誇るハープ奏者の吉野直子、今の日本を代表するチェンバロ奏者として八面六臂の活躍をみせる大塚直哉、現代音楽を中心に常に刺激に満ちた音楽を聴かせてくれる打楽器奏者・神田佳子…といった各分野のトップランナーに加え、ヴァイオリンの神尾真由子、フルートの上野星矢、ヴィオラの中恵菜、ソプラノの中山美紀といった突出した才能をもつ顔ぶれが集結。多彩な音楽が詰まった全5部構成の、豪華極まりないコンサートである。
ハープの吉野を中心に、ケージ、ドビュッシー、武満などを聴かせてくれる第1部、地元出身のライジングスター中山が、ヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》からクレオパトラのアリアを歌う第2部、J.S.バッハ「2台のチェンバロのための協奏曲」で2人の名手が共演する第3部…とここまででも濃厚なプログラムであることが伝わってくるだろう。そして第4部ではこの日のために作曲された、ハープと弦楽合奏のための「八放珊瑚八節」が世界初演される。作曲者の川上統は神奈川県逗子市出身。2年前に神奈川県民ホールで初演された「ビオタの箱庭」(サン=サーンス「動物の謝肉祭」へのオマージュ)が大評判になった実績があり、今回は第5部で神尾が特別編成のアンサンブルと演奏するヴィヴァルディの「四季」の神奈川県版(?)として、相模湾の八放珊瑚を通して四季折々の情景を音楽で描くのだろう。
70周年を記念するイベントは他にも! 11月3日には家族でコンサートだけでなく簡単な楽器作り体験も楽しめる「音楽堂ファミリーデー」、11月2日には専門家の話と演奏で名音響の秘密に迫ることができる「音楽堂建築見学会」、そして10月31日から11月4日にかけては、70年の歴史を肌で感じられる配布プログラムやポスター、出演者のサインや写真などが展示される。これからも現役で新たな音楽を発信していく神奈川県立音楽堂にあらためてご注目いただきたい。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2024年8月号より)
2024.10/31(木)〜11/4(月・休) 神奈川県立音楽堂
問:チケットかながわ0570-015-415
https://www.kanagawa-ongakudo.com
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。