映画音楽からオペラまで、俊英の美声に酔いしれる至福の1時間
古楽、オペラ、歌曲、ミュージカルナンバーなど、あらゆるジャンルを歌いこなす注目のバリトン、加耒徹が第一生命ホールの人気シリーズ「ごほうびクラシック」に登場。ビゼーの《カルメン》より〈闘牛士の歌〉からはじまり、武満徹の歌曲、往年の映画音楽の名曲、そしてメノッティのミニオペラ《電話》まで、1時間とは思えないほど大充実のプログラムを披露する(ピアノ:松岡あさひ)。
加耒は同ホールで開催された林美智子プロデュースによる「室内楽ホール de オペラ」に出演して好評を博したが、有名なアリアだけではないオペラの魅力を届けたかったとのこと。そこでソプラノの宮地江奈を迎え、プロポーズを電話に阻まれる若い男女のコミカルなやり取りが楽しい全1幕のミニオペラ《電話》(日本語字幕付)を軸にプログラムを構成した。
《電話》は1947年にアメリカで初演された作品だが、アメリカといえば映画ということで、『ニュー・シネマ・パラダイス』より〈愛のテーマ〉(モリコーネ)、『ひまわり』より〈失われた愛〉(マンシーニ)、『慕情』のテーマ曲(フェイン)など、プログラム前半には映画音楽の歴史に残る名曲たちが並ぶ。同じく前半に置かれた武満の〈翼〉〈明日ハ晴レカナ、曇リカナ〉〈小さな空〉といった歌曲もそうだが、クラシックに限らずさまざまな歌い手たちによってつむがれてきたメロディを、加耒がどのように歌うのか。そこには、広い視野で音楽を捉え、知的探究心をもって作品に取り組んできた加耒の音楽家としての豊かな経験がそのまま映し出されることだろう。
文:原 典子
(ぶらあぼ2024年8月号より)
2024.11/16(土)14:00 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702
https://www.triton-arts.net