【SACD】ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」 /ヤン・ヴィレム・デ・フリーント&読響

 学究肌のデ・フリーントらしくHIP(歴史的情報に基づいた演奏)を意識し、ピリオド奏法をモダン楽器に適用した興味深い演奏である。弦楽器の規模を縮小したオーケストラによる演奏で何より驚かされるのは、室内楽的な明晰さであろう。空虚5度で始まる1楽章冒頭は作為的なスケールに拡大されることなく、4楽章冒頭でも轟音が強調されることはない。常に客観的で等身大の音楽が描かれており、新たな作品像をも予感させる。またエディションを読み解くデ・フリーントの姿勢が伝わってくる自身のエッセイを始め、解説、シラーの詩の対訳などブックレットが充実していることも特筆に値する。
文:大津 聡
(ぶらあぼ2024年8月号より)

【information】
SACD『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」 /ヤン・ヴィレム・デ・フリーント&読響』

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ヤン・ヴィレム・デ・フリーント(指揮)
読売日本交響楽団
森谷真理(ソプラノ) 山下裕賀(メゾソプラノ) アルヴァロ・ザンブラーノ(テノール) 加藤宏隆(バス)
新国立劇場合唱団

収録:2023年12月、東京芸術劇場 コンサートホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00844 ¥3850(税込)