松田理奈(ヴァイオリン) & 大木麻理(オルガン)

大バッハの多彩なキャラが詰まった祝祭

左:松田理奈 ©Akira Muto
右:大木麻理

 祝祭的なバッハの名曲が新春を彩る「THE J.S. バッハ演奏会」が、サントリーホールで開催される。その主軸をなすのが、前半の小品集ではオルガンの大木麻理、後半の「ブランデンブルク協奏曲」(第6、3、5番)ではヴァイオリンの松田理奈の2人。ともに多彩な活躍を続ける実力派ソリストだ。2人はまず出演への思いを、「サントリーホールの響きの中でチェンバロ付きのアンサンブルをできるのが嬉しい」(松田)、「前回同様、『トッカータとフーガ ニ短調』で演奏会が始まる点に怖さと緊張感がある」(大木)と語る。

 2人にとってバッハは特別な存在でもある。

松田「ここ数年で本格的に向き合いだしたのですが、他の作曲家にはない音楽との関係性や音にするときの責任感を、少しずつ感じるようになってきました」

大木「オルガニストにとっては『バッハに始まり、バッハに終わる』というべき象徴的な大音楽家。付き合いが長くなればなるほど、手が届いたかと思ったらスルッと逃げ出していくような気がしますし、本気で向き合っていくと他の作曲家の見え方も変わってきます」

 プログラムの前半は、大木のオルガン独奏およびトランペットとのデュオで構成されている。

大木「ソロは有名曲ばかり。『トッカータとフーガ』『小フーガ ト短調』以外は編曲作品ですが、どれも『綺麗だな』『楽しいな』『どこかで聞いたことがあるな』と感じていただける音楽だと思います。トランペットとのデュオは、編曲作品の中で特に親しみやすく、両楽器の良さが生きる曲を選びました」

 オルガンとトランペットは相性が良く、特に今回の奏者・佐藤友紀(元・東響首席)とは「共演する機会も多い」という。

大木「両楽器は音量のバランスが良くて、お互いの良さを引き出し合えます。それにパイプオルガンも発声体は管ですから、管楽器同士で心地よい響きを得ることができます。また佐藤さんとは録音を積極的にしており、発売に向けて準備を進めているところ。互いにやりたいことがわかっていて、細かく詰めなくても音楽を作っていけます。彼の演奏は人声で歌っているように感じるほど美しくなめらか。トランペットの概念を変えてくれました」

 一方松田は、後半の「ブランデンブルク協奏曲」第3、5番に出演。豪華メンバー(「知り合いも多い」という)の合奏団のコンサートマスターを務め、5番ではソロも弾く。

松田「コンサートマスターは東京フィルのゲスト等で若干経験がありますし、オーケストラは大好き。今回は曲全体を俯瞰して見るように意識し、特に3番はズレやすい箇所などを念頭に置いて、ソロとはまた違った準備をしたいと思います。5番はほぼソリストなので、対等に動くフルートとの兼ね合いに気を付けながら、弾き振り的なイメージでアンサンブルを作りたい」

 3番と5番は違った特徴がある。

松田「3番は、パッセージの細かな受け渡しが多く、各奏者の対話がポイントになります。5番は有名曲で綺麗な響きとメロディばかり。この曲が最後を飾るのは素敵ですね」

 締めくくりに、お客様へ向けたメッセージを。

松田「バッハのみの内容でありながらこれほど聴き応えがあるコンサートは稀。普段並べて聴くことが難しい贅沢なプログラムを、ぜひ体感していただきたいです」

大木「フルコースの料理のようなプログラムですから、お腹と心が一杯になる覚悟でぜひいらしてください。バッハの色々なキャラクターの音楽を少しずつ味わえるので、私もお客さんになれたらどんなに楽しいだろうなと思います」

 これは、バッハの多様な名曲に浸りながら、多彩な名手の妙技に酔いしれることができる、得難い機会だ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年1月号より)

THE J.S. バッハ演奏会 New Year’s Matinee with celebrated pieces
2024.2/3(土)14:00 サントリーホール
問:ムジカキアラ03-6431-8186 
https://www.musicachiara.com