Ensemble Amoibeの第60回公演が1月5日、京都で開催

名手揃いの七重奏、興奮のステージがふたたび！

多方面で活躍するヴァイオリニスト、石上真由子さん率いる Ensemble Amoibe の公演が、悪天候による不運な夏の公演延期を乗り越えて、京都コンサートホールで新年に開催されます。日本屈指の弦や管の腕利きたちが揃っての七重奏は珍しく、8月に同プログラムで行われた東京公演は大きな反響を呼びました。関西方面のクラシックファンなら聴き逃がせない京都公演への期待をこめて、音楽ライターの林昌英さんにAmoibeのステージを振り返っていただきました。

　2023年8月14日、ヴァイオリニスト石上真由子が主宰する、室内楽プロジェクト「Ensemble Amoibe」（アンサンブル・アモイベ）の第60回公演がトッパンホールで開催された。創設から5年で60回というハイペースで進行してきたシリーズ企画だが、毎回が特別といえる水準の公演を重ねることで、着実にファンを増やしてきた。

　節目の公演は、「1800年4月のブルク劇場の再現」をテーマとして、若きベートーヴェンの野心が詰まった1800年の自主公演で奏でられた2曲を取り上げた。開演前には音楽評論家の奥田佳道をトークゲストに迎えて、公演テーマについて解説があった。トークを重視するのも、石上の「多角的な公演の楽しみ方」という提案の一環だ。

　この日の出演者は、石上真由子（ヴァイオリン）、篠﨑友美（ヴィオラ）、上村文乃（チェロ）、幣隆太朗（コントラバス）、アレッサンドロ・ベヴェラリ（クラリネット）、長哲也（ファゴット）、福川伸陽（ホルン）。各人の説明は割愛するが、それぞれが国内の代表的名手であり、メンバーを見るだけで興奮を隠せないほどの豪華布陣であることは強調しておきたい。

　演奏会前半は、交響曲第1番の七重奏版（内門卓也編曲）。オーケストラのパートを7人に振り分けるわけだが、可能な限り無理のない、違和感の少ない編曲で、新鮮な響きで名曲を楽しみ直す好機ともなった。何より7人の交歓の様子がいい。5人はオーケストラ所属経験があるが、むしろ原曲との違いを楽しんでいるのが伝わる。前半のアンコールとして、石上が七重奏曲のメヌエット楽章（松崎国生による無伴奏ヴァイオリン用編曲）を弾き、後半の本編に繋げていくのも独特の工夫。

　後半はベートーヴェン初期の室内楽の傑作、七重奏曲。これはオリジナル作品だけに、もう一分の隙もない演奏が繰り広げられて、期待通りの出色の名演が実現した。石上の安定の名技とリーダーシップは本当にすばらしく、何の不安もなく作品の世界に入り込める。7人をあえて大枠で分けて描写すると、盤石の支えでありながら猛烈なエンジンともなって勢いやエネルギーを生み出す低弦の2人、強い表現意欲で歌心と遊び心を表現し尽くす管楽器の3人、その5人のエネルギーを受け止めながら落ち着いて楽曲の表情を緻密に作り込む高弦の2人、という構図が面白かった。もちろんその枠で全て収まるわけではなく、局面ごとにその役割は入れ変わるが、例えばコントラバスの幣が全開で音楽を動かして構築する様、クラリネットのベヴェラリの喜びにあふれた歌の連続など、とにかく名人たちの交歓ぶり、高度な意味での「遊び」の贅沢さがたまらない。

　この公演はここで終わらない。この日は残念なことに台風7号が本州に直撃する直前で、しかも翌日は京都公演予定。出演者たちは台風のピークの前に、終演直後に京都へ移動を始める段取りで進めていた。しかし、七重奏曲の終了後、石上は舞台上であいさつを行い、安全を優先して京都行きを断念することを発表。出演者も舞台上で驚くほどの急な決断だった。なんとか気を取り直して演奏したアンコールが、モーツァルト交響曲第41番「ジュピター」第1楽章の七重奏版。公演テーマとなるブルク劇場公演で、先の2曲と共に演奏されたであろう曲が「ジュピター」で、テーマにも沿った名曲の快演で会場を沸かせたのである。

　そして、このとき断念した京都公演が、2024年1月5日に京都コンサートホールで実現する。きっかけは不運なトラブルではあったが、京都のファンにとっては新年に最高の舞台を体験できる望外の好機となる。石上と「アモイベ」の挑戦、これからも見守っていきたい。

文：林昌英