リスト後期の響きはドビュッシーに受け継がれています
青柳晋の自主企画リサイタルシリーズ『リストのいる部屋』は、毎年1人の作曲家が“ゲスト”として“リストの部屋”に迎えられるコンサート。リストとゲスト作曲家とが青柳ならではの切り口で結びつけられ、両者の作品が紹介される。9回目の今年のゲストは、印象派の作曲家ドビュッシーだ。
「リストの後期作品は、すでに印象派の様相を見せています。その中心的な作品が『エステ荘の噴水』です。この曲はドビュッシーやラヴェルといった後続の印象派の作曲家たちに影響を与え、水にまつわる作品を多く書かせるきっかけとなりました。
印象派のピアノ曲は、ペダル使いが特徴的です。ロマン派のショパンの作品までは、ペダルはあくまで純正な和音の響きを引き延ばすために使われていましたが、リストの後期作品あたりからペダルによって2つ以上の和音が掛け合わされるようになりました。それまで“非和声音”とされていた響きにこそ美を求め、新しい立体的なハーモニーが作られたのです。そうしたリストのペダル使いは、ドビュッシーへと受け継がれていると思います」
コンサート前半はドビュッシー作品。比較的演奏される機会の少ない「忘れられた映像」の〈レント〉を、プレリュード的に1曲目に配した。名曲「版画」、「夜想曲」に続き、青柳自身のアレンジによる「牧神の午後への前奏曲」ピアノ独奏版が披露される。
「ドビュッシーの一番の名曲だと思います。本当は自分でオーケストラを指揮したいくらいなのです。ピアノは弾いたあとから音を強くすることができないので、連打やトリルを使って音を膨らませたり持続させる工夫をしています」
ドビュッシーの最後は「喜びの島」。
「構造的にショパンの『舟歌』と非常によく似ています。ドビュッシーはかなりショパンのことも意識していたと思いますね。僕はこの作品を『舟歌』へのオマージュであると感じています」
後半のリストは、先述の「エステ荘の噴水」を軸にして選曲。
「『エステ荘の糸杉に—哀歌Ⅱ』は、同じ“エステ荘”でも雰囲気がまったく違い、暗くて瞑想的です。後期独特の宗教的な作風ですね。一見すると難解ですが、この曲の暗さがあってこそ『噴水』の光り輝く様が際立つと思います。『巡礼の年第2年〈イタリア〉』の『婚礼』と『ダンテを読んで』は、立派なブックエンドを置くように、後半の最初と最後に配置しました。リストの音楽的世界観はとにかく明快です。地獄での苦しみがあったかと思えば、最後は天使の光が出現して救いあげてくれる。どの曲にも見られるそんな包容力こそが、リスト最大の魅力だと思います」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)
自主企画リサイタルシリーズ リストのいる部屋 Vol.9
12/22(月)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990