若林顕 ピアノで聴く「第九」

ピアノ1台で築く巨大なる世界

 ©Wataru Nishida
©Wataru Nishida

 数時間が永遠へと繋がり、目の前のステージと客席とが広大な宇宙と化す——音楽と演奏会の不可思議な魅力を知る音楽ファンなら、一度はこのような経験があるかもしれない。若林顕の奏でるピアノは、音楽への畏怖と感謝と喜びに満ち、まさにそうした境地へと聴き手を導くパワーがある。そんな彼がこの年末、「鍵盤の魔術師」とも謳われたリスト編曲によるベートーヴェンの第九ピアノ独奏版に挑む。ピアノという楽器を知り尽くし、また室内楽を通じて弦・管楽器の特性にも通じた若林が、たった一人で第九の巨大なる世界を構築する。オーケストラだけでは飽き足らず、終楽章に合唱をも配して交響曲の領域を押し広げたベートーヴェンのエネルギーはもちろん、リストがピアノの88鍵盤を通じて果敢にもなし得ようとした“翻訳”の超絶的な技量を一手に引き受け、ヴィルトゥオーゾ若林が響かせる第九の宇宙。そこに一台のピアノだけがあるということを、忘れてしまうかもしれない。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)

音楽のある週末 第21回
12/21(日)14:00 第一生命ホール
問:トリトン・アーツ・ネットワーク・チケットデスク
  03-3532-5702 
http://www.triton-arts.net