東京文化会館 舞台芸術創造事業 現代音楽プロジェクト かぐや

欧州の作曲家の目を通して再創造される日本文化の粋

 東京文化会館は2021年の舞台芸術創造事業で、カイヤ・サーリアホが能に取材したオペラ《Only the Sound Remains》を上演した。そこで描かれたそこはかとない想念は、日本古来の精神を北欧というフィルターを通じて再解釈したものだった。

 今回の企画「現代音楽プロジェクト かぐや」の前半は室内楽コンサートで、彼女の弦楽四重奏曲「テッラ・メモリア」、サーリアホに師事したユハ・T・コスキネンの箏独奏曲「イザナミの涙」(世界初演、箏:吉澤延隆)、サーリアホが才能を認めていたフィンランド在住の横山未央子の新作クァルテットで構成される。演奏はヴァイオリンの山根一仁をはじめ、最前線で活躍する若手で固めた。サーリアホは前回の来日で体調が心配されていたが、今年6月、闘病の末、世を去っている。このプログラムも彼女の生誕70年を祝うものだったが、悲しいことに早すぎる追悼公演となってしまった。

 昨年度の舞台芸術創造事業では芥川龍之介を題材にしたユニークなモノ・オペラ《note to a friend》が上演されたが、今回の演奏会の後半部では欧州で注目を集める作曲家ジョセフィーヌ・スティーヴンソンが「竹取物語」、そして与謝野晶子の短歌に想を得て作曲した「かぐや the daughter tree」が初演される。今回は弦楽四重奏や箏の音色を背景にスティーヴンソン自身がヴォーカルを担当、今をときめく森山開次が振付・ダンスでコラボする。ルネッサンスの音響世界と現代的な感性をミックスした彼女の音楽が、世界最古のSF物語をどう描き出すのだろうか。

 公演に先立ち、1月11日にはスティーヴンソン自身による作品レクチャーも行われ、東京公演の後にはワールドツアーも待っている。新たな創造の誕生の瞬間を見届けたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年11月号より)

2024.1/13(土)15:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 
https://www.t-bunka.jp