チャイコフスキーコンクールを制したふたりが日本でデュオデビュー
思いがけない驚きは、少々意外なかたちでやってくる。
10月にリサイタルで来日したピアニストのアレクサンドル・カントロフが12月にも再来し、チェリストのズラトミール・ファンとデュオ・リサイタルを行う。2019年のチャイコフスキー国際コンクールの優勝者どうしの顔合わせだが、トッパンホールの呼びかけに応えて今回初めてデュオを組むという。先のコンクールで、20歳のファンはチェロ部門でアメリカ人として40年ぶり、史上最年少の優勝を飾り、22歳のカントロフはフランス人ピアニストとして初の優勝者となって大きな話題を呼んだ。
ズラトミール・ファンと言えば、2022年にトッパンホールのニューイヤー・コンサートでの無伴奏と室内楽が待望されたが、パンデミック下の入国制限で流れてしまった。この冬ようやくの初来日が叶うが、ブラームスに熱心で室内楽も好むカントロフとのデュオならば、待った甲斐があったということになるのではないか。
初めての共演にふたりが選んだのは、シベリウスの昏く情熱的な「メランコリー」とグリーグ唯一のチェロ・ソナタという北欧の音楽から、ドイツ・ロマン派に遡行し、ワーグナーのピアノ曲ロマンスをポッパーの編曲で挟んで、ブラームス円熟のソナタ第2番で結ぶプログラム。独特の構成と思えるが、両者持ち前の抒情、ロマンとパッションをじっくりと聴かせるのに相応しい曲目だろう。年若いデュオのはじまりの光景を、まっさらな心で聴きとどけに行きたいと思っている。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2023年11月号より)
2023.12/12(火)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com
他公演
2023.12/10(日) 北九州市立響ホール(北九州国際音楽祭事務局093-663-6567)