昨今のヨーロッパでは、著名独奏者が一定期間だけ固定メンバーの弦楽四重奏に加わる「ソリスト・クァルテット」とも呼ぶべき団体の活動が目立つ。テツラフ・クァルテットやアントン・クァルテットらを筆頭に、今井信子のミケランジェロ・クァルテットから若手ユリア・フィッシャーが率いるフィッシャー・クァルテットまで、片手で足りぬほどの団体が室内楽を越えた聴衆を集めている。
シューマン・クァルテットの第1ヴァイオリンも、気鋭ソリストとして注目を浴びるエリック・シューマン。日本人を母にデュッセルドルフの音楽一家に生まれたエリックは、ドイツの学生音楽コンクールを11歳で優勝、名教師ザハール・ブロンに学び、独奏者として前途洋々たる未来を期待されていた。日本にも2000年代の末頃からN響や読響にソリストとして登場、人気も高まっていた。今シーズンも各地のオーケストラで独奏活動をするエリックだが、シューマン・クァルテットはソリストの片手間仕事ではない。「弟たちが始めた弦楽四重奏団のヴァイオリンが脱退し、参加を懇願されたのです」(エリック・シューマン)。参加を決めてからは、ケルンでアルバン・ベルク弦楽四重奏団に学び、世界の主要室内楽コンクールにも参加。真っ直ぐに伸びていたスターソリストの道を絶ち、室内楽の専門家として本格的な鍛錬を積んでいる。
ソリストの才を擁しつつ、フルシーズン活動する本格派団体を目指すシューマン・クァルテット。今回はハイドンの第79番「ラルゴ」、アイヴズの第2番、そしてベートーヴェンの第14番という個性的なプログラムで挑む。室内楽も弾くソリストと、ソリストにもなれる室内楽奏者の違いを、とくと御賞味あれ。
文:渡辺 和
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)
11/30(日)14:00 第一生命ホール
問:トリトン・アーツ・ネットワーク・チケットデスク03-3532-5702
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