オペラ・ノヴェッラ 歌劇《ラ・ボエーム》

スコアと台本を徹底研究し、作曲家の狙いどおりに再現された舞台

 ホンモノのオペラに触れたければ、オペラ・ノヴェッラの公演を鑑賞するといい。筆者がいま、いちばん信頼している団体である。理由は、作曲家が表現しようとした原点と真摯に向き合い、手垢を洗い流して、妥協せずに作品のほんとうの姿を再現しようと努めているから。

 たとえば一昨年のヴェルディ《椿姫》。演出の古川寛泰は、台本のト書の意味まで徹底検証してドラマを深掘りし、指揮の瀬山智博は慣習的にカットされる部分もすべて演奏して、無視されがちなヴェルディの指示をひとつも疎かにしなかった。素材を活かした無添加の食品にも似た、皮相的でない上質の悲劇を味わうことができた。

 昨年の《カヴァレリア・ルスティカーナ》と《修道女アンジェリカ》にも同様の姿勢が貫かれ、とくに後者は17世紀末の女子修道院のあり方まで研究し、ドラマに内在する深みを引き出していた。

 そして、今年はプッチーニ《ラ・ボエーム》である。古川はスコアと台本を徹底的に読み込み、時代背景を学びつくし、個人の邪念は排除してプッチーニのしもべのように作品を再現しようとしている。瀬川も同様の作業を、音楽作りをとおして進めている。

 歌手陣も例年同様に秀逸で、ミミ役の佐田山千恵とムゼッタ役の斉藤園子は、13年前のPMFでファビオ・ルイージの指揮のもと、同じ役を歌ったコンビ。ロドルフォ役は、新国立劇場、東京二期会などの舞台で頭角を現す伊藤達人。この団体はイタリア語へのこだわりも半端ない。しかも、合唱団はジュニアもふくめて市民が出演しているとは思えない高水準である。初心者もマニアも、この公演でほんとうの《ラ・ボエーム》を知ってほしい。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2023年6月号より)

2023.9/3(日)14:00 ハーモニーホール座間
問:ハーモニーホール座間046-255-1100 
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