細川俊夫がカリフォルニア大学「バークレー日本賞」を受賞

3月に樫本大進&ベルリン・フィルがヴァイオリン協奏曲を初演

 作曲家の細川俊夫が、カリフォルニア大学バークレー校日本研究センター(Berkeley Institute of East Asian Studies / Center for Japanese Studies)が主催する「バークレー日本賞 Berkeley Japan Prize」を受賞。現地時間1月20日、同大学バークレー校キャンパス内で授賞式が行われた。今年で6回目となるこの賞は、「生涯を通して世界における日本の理解に重要な貢献を行った」人物に贈呈されるもので、これまでに、作家の村上春樹(2008)、映画監督の宮崎駿(2009)、音楽家の坂本龍一(2013)、物理学者の梶田隆章(2017)、作家の柳美里(2022)が受賞している。

左:細川俊夫 右:羽生淳子(日本研究センター所長)
写真提供:カリフォルニア大学バークレー校日本研究センター

 細川は1955年、広島市生まれ。ドイツで尹伊桑(ユン・イサン)やクラウス・フーバーに学ぶ。現代、世界でもっとも著名な作曲家の一人に数えられ、日本やヨーロッパを中心に作曲活動を展開。主要オーケストラ、音楽祭、劇場等から委嘱を受け、多くの管弦楽作品やオペラ作品を手がけている。故郷・広島の原爆投下を題材にした「ヒロシマ・声なき声」(1989/2000)や、東日本大震災の犠牲者に捧げられた「瞑想(メディテーション)」(2012)などのオーケストラ作品のほか、能に材をとった《松風》(2010)、《班女》(2014)などのオペラ作品においても、東洋の感性と西洋音楽の前衛との融合を試み、唯一無二の世界観を生み出している。

◎受賞理由
 現代の西洋音楽を熟知した上で能の再解釈を試み、さらに現代日本の視点を前面に掲げることによって、細川氏は、西洋音楽と日本音楽の影響の均衡を保つ作品を発表し続けてきました。彼の音楽は、文化の多孔性という可能性を示しています。西洋のクラッシック音楽の歴史が細川氏の生涯を形作ったのと同時に、細川氏の音楽は、西洋のクラッシック音楽にきわめて大きな影響を及ぼしてきました。この点で、細川氏は、傑出した日本の作曲家であるのみならず、世界で最も優れた作曲家の一人として評価できます。
Berkeley Institute of East Asian Studies ウェブサイトより引用)

 3月初旬には、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ベルリン・フィルの演奏会で、新作のヴァイオリン協奏曲「祈る人」が樫本大進によって世界初演されることが決まっている。国際共同委嘱作品でもある本作は、6月にはKKLルツェルンでのルツェルン交響楽団演奏会で(ミヒャエル・ザンデルリンク指揮/スイス初演)、7月には東京でも読売日本交響楽団の第630回定期演奏会で(セバスティアン・ヴァイグレ指揮/日本初演)披露される予定(独奏はいずれも樫本大進)。

Toshio Hosokawa ©︎ Kaz Ishikawa

 日本と西洋の音楽の融合した姿を長年追い求めてきた細川だが、自らの存在を「仏像を作る名もなき一人の仏師のようなもの」として捉えているといい、授賞式後におこなわれたメディア向けの会見では、この作品を書いた理由を以下のように語った。

「ウクライナの戦争が始まり、それ以前もずっとCOVIDでどうしようもない状況が続いていました。いま自分が芸術家として何ができるのか。自分の無力さを感じていました。日本には美しい仏像が至るところにありますが、そのほとんどが無名の仏師が作ったもの。ただそこにあるだけで、どこかで私たちを深い部分で支えてくれる部分があるんじゃないかなと思った。(それと同様に)アーティストのエゴの表現として音楽を作るのではなくて、そうした見えないところで支えるような、祈りの心のようなものを作曲してみたいなと思ったのです」

 また、教鞭をとっている東京音楽大学の学生や若い世代の作曲家に向けて、コメントを求められると、「広い視野を持って、世界の中で自分がどういう立場にあって、どういう作曲ができるのかを問いかけています。世界は広い。自分の足元を確かめることはとても大切で、そこからしか本当にオリジナリティのある音楽はできないと思う。広い視野を持つことと自分を掘り下げていく、その両方をしっかりやってほしい」とエールを送った。

授賞式では、川村京子により細川の1999年の作品「箏歌」の演奏もおこなわれた
写真提供:カリフォルニア大学バークレー校日本研究センター

 時代や社会と向き合いながら、独自の美意識・哲学を貫ぬいてきた細川。この後は、環境破壊をテーマにした大きなオペラのプロジェクトも控えているという。沈黙、静謐な音世界を追い求めてきたその音楽は、世界が混沌として先行きの見えない今、より説得力を増して響く。7月の日本でのヴァイオリン協奏曲初演をはじめ、精力的な創作活動の行く末に注目したい。

(取材協力:ショット・ミュージック株式会社)

【information】
ベルリン・フィルでの世界初演はDigital Concert Hallで日本からも視聴可能。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
樫本大進(ヴァイオリン)
2022.3/2(木)20:00、3/3(金)20:00、3/4(土)19:00(現地時間)
https://www.berliner-philharmoniker.de/konzerte/kalender/details/54308/
日本時間 3/5(日)午前3:00よりDigital Concert Hallでライブ配信あり(後日アーカイブ配信もあり)
https://www.digitalconcerthall.com/ja/concert/54308

読売日本交響楽団 第630回定期演奏会
セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)
樫本大進(ヴァイオリン)
7/27(木)19:00 サントリーホール
https://yomikyo.or.jp/concert/2022/12/630-1.php
チケット一般発売:3/30(木)