歌曲のことばが紡ぐさまざまな国の愛のかたち
小川典子が昨年に続いて歌曲に挑む。隠岐彩夏(ソプラノ)と寺田功治(バリトン)との共演。ホールアドバイザーを務めるミューザ川崎での企画公演だ。
「またあの快感が味わえます! ずっと声楽とご一緒したいと考えていたのですが、昨年ようやくソプラノの市原愛さんとドイツ歌曲のコンサートを実現できました。その終演後の楽屋がすっかり盛り上がって、その時すでに次は『詩人の恋』という話が出ていたんです」
「詩人の恋」なら男声ということで、まず寺田に出演を依頼した。これが初共演ではあるものの、寺田は小川が教授を務める英国ギルドホール音楽院で学んでいたので旧知の仲。
「直接交流があったわけではないのですが、存在は当時からよく知っていました。ギルドホール音楽院のオペラ科はイギリスではものすごく有名で、学内でもオペラ科の学生が歩くとみんなが振り向くぐらい注目されているんです。寺田君はその中でも目立っていましたから」
そして、ぜひ華やかな女声もということで、目下大躍進中のソプラノ隠岐の出演が決まった。彼女はシューマンの歌曲研究で博士号を取得しているスペシャリストでもある。
「そうしたら彼らはすごく仲がいいということがわかって、私もうれしかったですね(2016年の日本音楽コンクールでは二人が競い合い、隠岐が第1位に、寺田が第2位に輝いている)。隠岐さんが加わってくださったことで選曲に広がりも出て、二重唱も歌ってもらうことになりました」
「ことばと愛」という公演タイトルどおり愛の歌が並ぶプログラムは、前半が寺田の「詩人の恋」。後半に隠岐が加わり、彼女のドイツ歌曲や、寺田のジェラルド・フィンジとラフマニノフ、さらに二人のフランス歌曲や武満ソングを含む日本歌曲。最後に歌われるシューマンやメンデルスゾーンの二重唱を聴く機会は案外少ないだろう。貴重な機会。
「器楽奏者からすると、毎日の練習から“言葉”とともに生きているというのは、もはやひとつの感動です。そこに自分の声を吹き込んでいくのはどういう感覚なのでしょうね。録音や解説で接するのでなく、その輪に一緒に加わることができるのは、ピアニストにとって深い喜びを得ることができる音楽作りです」
歌曲の世界を語る彼女は実に楽しそう。日常的に言葉の表現と向き合っている歌手たちから、多くのものを受け取っているにちがいない。それが3人の歌となって立ち上ってくる公演。聴き逃せない。
取材・文:宮本明
(ぶらあぼ2023年2月号より)
ホールアドバイザー小川典子企画 歌曲でめぐる世界 ~ことばと愛~
2023.2/25(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp