サロンオーケストラジャパン音楽監督、クロード・小林に聞くサロンオーケストラの魅力

取材・文:原典子

年間350公演以上! 生演奏を幅広く届ける小編成オーケストラ

 コロナ禍をきっかけに「社会と音楽の関わり」について考える機会が増えた方も多いのではないだろうか。そんななか、30年以上にわたって音楽と人々との出会いを作る活動に従事してきた団体「サロンオーケストラジャパン」および「日本サロンコンサート協会」に注目したい。1990年に設立されたオーケストラの音楽監督であり、協会の代表を務めるヴァイオリニストのクロード・小林に話を聞いた。

「サロンオーケストラジャパンの活動は、コンサートホールだけでなく、レストランやカフェ、個人の邸宅、商業施設、地域のコミュニティセンターなど、あらゆるところでコンサートを開催することで、普段はクラシックのコンサートに行かない方々にも音楽を届けること、生活のなかに音楽を提供していくこと、そうした0から1への変化を生み出すことを主眼としています」

クロード・小林(右から3人目)

 現在は依頼公演を含めると年間350ステージ以上にものぼるという。子どものためのコンサートや、学校の芸術鑑賞会での演奏も数多い。

「今でこそ子どものためのコンサートは増えましたが、オーケストラが演奏している最中に子どもが自由に歩き回ったり、演奏中の楽器に触れたりできる参加型のコンサートを日本で最初にはじめたのは、おそらくサロンオーケストラジャパンでしょう。私たちの活動はどちらかというと、新聞では音楽や芸術が取り上げられる文化・芸能面ではなく社会面に載ったり、音楽番組ではないテレビ番組で紹介されたりすることが多かったですね。世の中の動きや主催者のニーズをいち早く捉え、すぐに改善していくことで、30年間少しずつグレードアップしてきました」

 「サロンオーケストラ」とは4〜5人から20人程度まで自由度の高いアンサンブルで、小編成のなかに管弦打楽器やピアノが入るのが基本のスタイルだという。

「たとえば5人の場合、ヴァイオリン2人、チェロ、クラリネット、ピアノといった編成になったりします。6人のアンサンブルにトロンボーンを入れてみたり、本当に編成はさまざまですが、弦楽器のアンサンブルに管楽器が入ると、よりオーケストラっぽいサウンドが楽しめますね」

 小林はベルリンに留学していたときにサロンオーケストラという文化に触れ、これを日本に持ち帰りたいと考えたのだと語る。

「20世紀の初頭、ヨーロッパやアメリカを中心に、世界中で生演奏が爆発的に普及したときに活躍した演奏スタイルがサロンオーケストラです。1920年代前後はカフェの時代とよく言われますが、新聞が読めたり情報交換できたりするカフェは街の人々が集まる場所になっていました。小さなサロンオーケストラが生演奏をするカフェも多く、BGMとして鳴らしている店もあれば、ダンスの伴奏をしている店も。あとは映画館ですね。当時の映画はサイレントなので、すべての映画館にピアノやオーケストラピットがあり、生演奏が入っていました。ベルリンにはプロのサロンオーケストラが300以上も活動していたと聞きますが、それも不思議ではないですね」

 クラシックだけでなく、ジャズやミュージカルなど、ジャンルの幅が広いのもサロンオーケストラの特徴だ。

「当時は家族音楽会も盛んでした。たとえばお父さんがチェロ、お母さんがピアノ、お兄さんがフルートといった具合に、5〜6人でたまたまそこに集まった人たちが、持ち寄った楽器で演奏するのがサロンオーケストラです。そこでは、昨日観たオペレッタの有名な曲を家族みんなで演奏したいといったニーズもありました。そのため、何人でも、どんな編成でもフレキシブルに対応できるサロンオーケストラ用の楽譜が大量に出回ることに。私はそういった楽譜を集め、約4000曲、1.5トン分を日本に持ち帰ってサロンオーケストラジャパンの活動をはじめました。クラシックだけでなく、タンゴやシャンソン、映画音楽、ミュージカルなどもあります」

 そしてこのたび、サロンオーケストラジャパンが第1回定期公演を開催する(12/22/所沢市民文化センター ミューズ)。30年以上にわたり数えきれないほどの公演を重ねてきたオーケストラが、あえて定期公演をスタートする理由は?

「ひとつには、日本サロンコンサート協会から株式会社アンフィニという会社組織にリニューアルしたことをきっかけに、新しいことをはじめてみたいと思ったというのがあります。これまでは小編成の楽しいサロン音楽が中心でしたが、これからはオーケストラのような大編成にも広げていきたいと。今回は60人近いメンバーがいますから、もはやサロンオーケストラとは言えないかもしれないですね(笑)」

 指揮には注目を集める若手の阿部未来を迎え、J.シュトラウスIIのワルツやブラームスのハンガリー舞曲といった親しみやすい曲から、久保陽子によるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、進藤実優によるショパンのピアノ協奏曲第1番、黒岩悠によるモーツァルトのピアノ協奏曲第23番といった豪華なソリスト陣によるコンチェルトまで、聴きごたえたっぷりのコンサートだ。

「もうひとつの理由としては、コロナ禍で演奏のチャンスが減ってしまった若い演奏家たちに、たくさん参加してもらいたいと思ったからです。もともと私がサロンオーケストラジャパンをはじめた動機として、若い演奏家がヨーロッパに留学して学んできたことを、日本の仕事ではなかなか活かすことができない状況をなんとかしたい、ヨーロッパで学んだことをそのまま活かせるような演奏団体を作りたいという思いがありました。コロナ禍以来、留学を終えて日本に帰ってきた若い演奏家たちが新しい仕事を得るチャンスはますます減っていますから、才能ある方々にここで新しい波を起こしてもらえたらと。我々にとっても、これまでには出会えなかったお客様の層と出会うチャンスになると考えています。これからは、サロンオーケストラジャパンのファンを作っていけたらいいですね」

 新たな音楽との出会いを社会に提供していくなかで、若い演奏家を育成していくサロンオーケストラジャパンの活動は、これからますます活性化していきそうだ。

サロンオーケストラジャパン 第1回定期公演
2022.12/22(木)19:00 所沢市民文化センター ミューズ アークホール

阿部未来(指揮)
サロンオーケストラジャパン

出演/
久保陽子(ヴァイオリン)
進藤実優(ピアノ) ※山本貴志から変更になりました(12/9)
黒岩悠(ピアノ)

J.シュトラウスII:雷鳴と稲妻、美しく青きドナウ
ブラームス:ハンガリー舞曲
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
ショパン:ピアノ協奏曲第1番
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 他

問:アンフィニ 03-6379-9773
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