20世紀イギリスプログラムに込める、平和への希求
下野竜也は知られざる曲を積極的に紹介してきた指揮者だが、12月の日本フィル定期ではイギリスをテーマに、攻めたプログラミングを聴かせてくれる。
まず前半はヴァイオリンとオーケストラが美しい綾を織りなすフィンジ「入祭唱」op.6でしめやかに始まり、タネジ「3人の叫ぶ教皇」へつなぐ。イギリスの画家フランシス・ベーコンが描いた異形の教皇の姿にインスピレーションを受けた本作は、暴力的な音響をポップな感性でまとめあげ、タネジの出世作のひとつとなった。そこからまたフィンジに戻り「武器よさらば」。17世紀の詩人の詩句に付曲した、古典的かつ抒情的なたたずまいを持った本作を歌い上げるのは、新国立劇場や二期会で活躍するテノール糸賀修平。ちなみにこの3曲は休憩を入れずに一続きで演奏する予定と聞く。
後半はヴォーン・ウィリアムズの交響曲第6番。戦争末期から書き始められた本作は急降下爆撃のような激しい突進で始まり、長く冷たい暗闇の中に消えていく。戦後まもなくして行われた初演では、それが戦争の惨禍を描いているのだと誰もが感じたという。
このプログラミングは理不尽な暴力や戦争の残酷さ、平和への希求を描いた20世紀イギリスの音楽という共通点を持っており、絵画やバロック期の詩を参照しながら、それが人類にとって普遍的な悩みであり願いであることを訴えているのである。歴史に学ぶ——国家の対立と冷酷な破壊が再び戻ってこようとしている現在、これほどアクチュアルなプログラムがあるだろうか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年12月号より)
第746回 東京定期演奏会〈秋季〉
2022.12/9(金)19:00、12/10(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp