登竜門を制した新鋭が挑む「ゴルトベルク変奏曲」
5月にコロナ禍を経て4年ぶりに開催された「第9回 野島稔・よこすかピアノコンクール」で第1位を受賞した本堂竣哉は北海道北見市出身。藝大附属高を経て4月から藝大の1年生になったばかり。第2次予選では本コンクールの特長であるベートーヴェンのピアノ・ソナタ課題から第28番を選択し、「正統的かつデモーニッシュな」演奏を披露。本選ではJ.S.バッハのゴルトベルク変奏曲で「演奏会さながらに聴衆を魅了」したという。
「5歳のときにグレン・グールドのゴルトベルクに出会って衝撃を受け、それからはずっとバッハの音楽がいつも自分の近くに存在している気がします。でもベートーヴェンも敬愛していますし、もともとバロック以前の古楽にも興味があって、高校で同好の友だちをみつけてさらにどっぷり(笑)。中世・ルネサンスあたりまで深掘りして、特に(15〜16世紀に活躍したフランドル楽派の)ジョスカン・デ・プレが凄く好きですね。一方で新ウィーン楽派の3人やそれ以降の現代音楽も熱心に聴きますよ」
とはいえバッハへの熱い想いは別格だ。11月23日にコンクール会場と同じ「よこすか芸術劇場」で開催される優勝記念公演であらためて披露される〈アリアと30の変奏曲〉に今から大いに期待したい。
「イギリス組曲やフランス組曲、パルティータには日常に根ざしたロマンがあって弾くのが楽しく、平均律クラヴィーア曲集には心をリセットして視界をクリアにしてくれるような効果を覚える。そして最晩年の作品であるフーガの技法が持つある種の到達した境地…まるで過ぎ去った時間を振り返るようにして戻っていく感じも素晴らしいと思いますが、ゴルトベルク変奏曲はいわば“終わりなき”旅。鍵盤に向かうと曲が常に何かを提示して先へ先へと導いてくれて、最後まで弾き通すたびに、何度も別の人生や創造や哲学を旅する経験ができる。あるときには最後の5つくらいの変奏でキリストが復活するような感覚を味わったこともあります。どれだけ勉強しても尽きないし、いつも自分がいかに無知なのかを思い知らされる。決して届かない大きなものに向かって手を一生懸命伸ばしている感じですが、そういう絶望感みたいなのも含めて胸がワクワクするのです!
あの大劇場を自分の音楽で支配できるかどうかはわかりませんが、僕の演奏を通して皆さんもバッハの宇宙に触れ、光をみつけるきっかけになれば嬉しいです」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2022年11月号より)
第9回 野島 稔・よこすかピアノコンクール優勝記念公演
本堂竣哉 ピアノ・リサイタル
2022.11/23(水・祝)14:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
https://www.yokosuka-arts.or.jp