無伴奏作品の新境地を開拓する
現代最高のチェリストのひとり、マリオ・ブルネロが来日してバッハを聴かせる。しかも無伴奏チェロ組曲全6曲に加えて、なんと無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ全6曲まで披露するという驚きの企画。さらには2会場、2日間で12曲完奏というユニークなプロジェクトでもある(セット券は無し)。
気になるのはヴァイオリンの6曲で、「チェロ・ピッコロ」という小型のチェロを使用すること。チェロより一回り小さく、調弦はヴァイオリンと同じ(下からソレラミ)で1オクターブ低い音が鳴る。17世紀からバッハが没する時期まで用いられた楽器で、1720年代には一時的に流行したという。とにかくブルネロ待望のレパートリーとのことで、学究的な意味合いに留まらず、録音ではすでに再発見にあふれた心洗われる演奏を実現しており、実演でも意義深さという枠をはるかにこえる世界を作りあげてくれるはず。チェロ組曲については、ブルネロであれば世界最高峰の体験になることはもはや前提であり、今回はヴァイオリン曲との相乗効果でどのような姿が提示されるのか、という新境地までが期待される。
プログラミングは、ヴァイオリン曲は初日の紀尾井ホールでパルティータ3曲、2日目の三鷹市芸術文化センターでソナタ3曲。チェロ組曲は後半3曲が初日、前半3曲が2日目なので、購入の際は要注意。この順番も会場と楽曲の関係等、何らかの理由があるのだろう。ブルネロのほかには実現し得ないプロジェクト、刮目して体験したい。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年10月号より)
2022.10/28(金)18:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット
webticket@kioi-hall.or.jp
https://kioihall.jp
10/29(土)14:00 三鷹市芸術文化センター 風のホール
問:三鷹市スポーツと文化財団0422-47-5122
https://mitaka-sportsandculture.or.jp