文:池田卓夫
「ウィーン音楽の旅」が戻ってきた。2020年から3シーズン近くに及んだ新型コロナウイルス感染症世界的な大流行=パンデミックの影響で人々の往来は極端に制限され、海外旅行も諦めざるを得なかった。2022年9月には帰国時の検査義務が撤廃され、一足早く日常生活を取り戻したヨーロッパにも出かけやすくなる。音楽ファンならやはり、世界中の演奏家が腕を競い合う「都」、ウィーンからツアーを再開したいと思うだろう。
JTBのラグジュアリー旅行専門店 ロイヤルロード銀座が企画した「ライブ音楽の旅~ウィーン音楽の旅」は1)ムジークフェライン(楽友協会)大ホールとコンツェルトハウスで聴く「至高の響き オーケストラ演奏会堪能」(6・7日間)、2)国立歌劇場(シュターツオーパー)とフォルクスオーパーで観る「魅惑のオペラ公演を堪能」(6日間)——の2種類。
演奏会編のうち12月15日出発分はエマニュエル・チェクナヴォリアン指揮ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団、クリスティアン・マチェラル指揮ウィーン交響楽団、ダニエル・バレンボイム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団をすべて同じ会場、ムジークフェラインで聴けるので、オーケストラの個性の違いを自身の耳で確かめられる。新年1月10日出発分はコンツェルトハウスでルドルフ・ブーフビンダーのピアノ・リサイタル、ムジークフェラインでアンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィル、コンスタンティノス・カリディス指揮ウィーン響を聴くバラエティ豊かなメニューだ。
オペラ編では2023年3月23日出発分が興味深い。ロシア歌劇《エフゲニー・オネーギン》(チャイコフスキー)、イタリア歌劇《トスカ》(プッチーニ)、ドイツ歌劇でオーストリア〝原産〟の傑作《フィガロの結婚》(モーツァルト)と、世界のオペラに3日連続で触れる貴重な体験。とりわけ《フィガロ》は鬼才バリー・コスキー演出の新制作で現在の音楽監督、スイス出身のフィリップ・ジョルダンが指揮する注目の公演だ。
〈音楽だけでないウィーンの魅力 美術館&博物館〉
16世紀から20世紀初頭まで続いたハプスブルク帝国の歴史を通じ、ウィーンにはヨーロッパ一円の美術品・骨董品が集まり、今日でも大小様々の美術館や博物館を訪れる人々の目を楽しませている。最も有名なのは美術史美術館で1891年完成、エジプトやギリシャ・ローマの彫刻、イタリア、フランドル、ドイツのルネサンス・バロック絵画を収めている。2001年に開館したレオポルド美術館はグスタフ・クリムト、エゴン・シーレ、オスカー・ココシュカら20世紀前半のオーストリア美術を網羅する。クリムトの大作「ベートーヴェン・フリーズ」はヨーゼフ・マリア・オルブリヒが設計したセセッション(ウィーン分離派)会館にある。1873年の万国博覧会に明治政府が大量の工芸品を展示したことをきっかけとするウィーンのジャポニスム(日本趣味)は1900年、セセッションの大々的な展覧会に結実した。ヨーゼフ・ホフマンやコロマン・モーザーらが立ち上げた創造的工芸家組合ウィーン工房は日本の美術工芸を理想としつつ、ウィーン独自の展開を目指した。その軌跡はウィーン応用美術博物館(MAK)に残る。
〈散策のひと休みに ウィーンのカフェ〉
ウィーンのカフェはコーヒーの種類が多く、カフェラテが「メランジェ」、エスプレッソが「モカ」「シュヴァルツァー」…と独特の名称を使う。トルコ軍の置き土産「トュルキッシャー・カフェ」は真っ黒、銅器でサーヴされる。国立歌劇場の真後ろ、ケルントナー通りの入り口にあるチョコレートケーキの逸品「ザッハートルテ」の元祖、ホテル・ザッハーのカフェに入るとハプスブルク帝国の時代にタイムスリップしたような雰囲気。隅のテーブルは毎日やってくる老婦人1人だけのためにキープされていると聞き、驚いたことがある。コールマルクトの「デーメル」には皇帝フランツ・ヨーゼフⅠ世(1916年退位)がお忍びでスイーツを味わいに訪れた部屋が現存する。1861年のリング大通り完成と同時にオープンした「シュヴァルツェンベルク」は高い天井、大理石のテーブル、大きな鏡…とウィーンのカフェのデフォルトを今に伝え、ターフェルシュピッツやシュニッツェルなどの名物料理も注文できる。
〈絢爛豪華な宮殿と城〉
もちろんウィーンの中心部、ハプスブルク帝国の新旧王宮を中心とするホーフブルク宮殿は壮観で、現在もオーストリア大統領公邸や美術館、図書館、乗馬学校など数多くの施設を擁する。しかし美しさや情緒、スケールの点では歴代皇帝の夏の離宮、ユネスコの世界文化遺産にも登録されているシェーンブルン宮殿が圧巻だ。18世紀に現在の規模となり、当時の女帝に由来する「マリア・テレジアの黄色」に彩られた大宮殿ではモーツァルトが演奏、誤って転んだ時に起こしたのが王女マリア・アントニア、後のフランス王妃マリー・アントワネットだったという逸話がある。広大な庭園、植物園などを擁する敷地内にはシーボルト博士が寄贈した日本の種子に由来する植栽や、ジャポニスムの時代の1913年に造営、1999年に復元された日本庭園もある。近くのホテルに泊まれば、早朝ジョギングも楽しめる。もう一つ、プリンツ・オイゲンが夏の離宮として建てた下宮、迎賓館の役割を担う上宮の2館からなるベルヴェデーレ宮殿も美しい。
<ウィーン国立歌劇場>と<ウィーン・フォルクスオーパー>
魅惑のオペラ公演を堪能 ウィーン音楽の旅
https://ebook.jtb.co.jp/book/?A5697#22
<ウィーン楽友協会大ホール《黄金の間》><ウィーン・コンツェルトハウス>
至高の響き オーケストラ演奏会堪能 ウィーン音楽の旅
https://ebook.jtb.co.jp/book/?A5697#25
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